研究課題
本年度は3件の原著論文発表、5件の学会発表、4件の邦文総説の発表を行った。食用油の脂肪酸組成は用いられる植物原料により異なっており、一般的なマウス飼料に用いられる大豆油はオメガ3脂肪酸のaリノレン酸を約5%含むのに対し、亜麻仁油はその10倍以上の約60%にも及ぶ。こうした脂肪酸組成の違いに着目し、牛脂とラードを含んだ高脂肪餌に、大豆油あるいは亜麻仁油を配合することで、高脂肪負荷により誘導される糖尿病の病態形成にオメガ3脂肪酸の摂取が与える影響について解析を行った。その結果、大豆油群も亜麻仁油群も同程度に体重増加を示したが、亜麻仁油群では糖負荷試験やインスリン耐性試験の値が改善することがわかった。その要因を調べるために精巣上体周囲脂肪組織を回収しフローサイトメトリー解析や免疫組織化学的解析を行ったところ、亜麻仁油群では高脂肪負荷によって誘導されるマクロファージの浸潤や王冠様構造の形成が抑制されていることが判明した。そこで次に、精巣上体周囲脂肪組織から成熟脂肪細胞を分離し遺伝子発現解析を行ったところ、インスリン耐性を誘導する炎症性サイトカインtumor necrosis factor-a (TNF-a)の発現が亜麻仁油群で低下していることが明らかになった。さらに亜麻仁油の抗炎症作用を担うオメガ3脂肪酸代謝物の同定に向けて、液体クロマトグラフィーと質量分析計を用いた定量法を確立し、本解析基盤を駆使してアレルギー性鼻炎や接触皮膚炎に対して抗炎症活性を持つオメガ3脂肪酸代謝物を複数同定した。以上より、高脂肪負荷によって誘導される脂肪組織へのマクロファージの浸潤や王冠様構造の形成、TNF-aの産生といった脂肪組織炎症が亜麻仁油の摂取により抑制されることで、糖尿病の病態形成が抑制されたと考えられる。今後は脂肪組織炎症を抑制する実効分子の同定に向けて候補代謝物の機能解明を進めていく。
2: おおむね順調に進展している
高脂肪負荷によって誘導される糖尿病の病態形成が亜麻仁油の摂取により抑制されることを、フローサイトメトリー解析や免疫組織化学的解析、遺伝子発現解析などを用いて様々なアプローチにより示すことができた。さらにメタボローム解析を用いたオメガ3脂肪酸関連代謝物の定量法を確立し、本解析基盤を用いてアレルギー性鼻炎や接触皮膚炎に対して抗炎症作用を担うオメガ3脂肪酸代謝物を複数同定し、脂肪組織炎症を抑制する候補分子として同定することができた。したがって、おおむね順調に進展していると評価した。
当初の計画通り、脂肪組織炎症を抑制する実効分子の同定に向けて候補代謝物の機能解明を進めていく。
COVID19新型コロナウイルスの国内での感染拡大を懸念し、当該年度末に予定していた実験を次年度に行うことにした。そのため、これに関連する実験用マウスや試薬の購入費を次年度に回して使用することにした。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (4件)
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