研究課題
本年度は4件の原著論文発表(in press 1件を含む)、6件の学会発表(招待講演1件を含む)、5件の邦文総説の執筆(図書1件を含む)を行った。本年度は抗炎症作用を示す脂肪酸代謝物の同定に向けてリピドミクス解析基盤をさらに拡充し、ノンターゲット解析に強いオービトラップ型質量分析計を使った解析システムに加えて、高感度定量解析に強い三連四重極型質量分析計を用いた解析システムを導入し運用を開始した。これにより、定量可能な代謝物の数を大幅に増やすことに成功し、さらには、超臨界流体抽出システムや超臨界流体カラムクロマトグラフィー分取装置の運用も開始し多角的な観点でのメタボローム解析基盤を確立することができた。オメガ3脂肪酸のa-リノレン酸を多く含む亜麻仁油含有飼料を与えたマウスの臓器を用いてリピドミクス解析を行ったところ、臓器によって主に増加する脂肪酸代謝物が異なることが判明した。亜麻仁油餌を摂取したマウスの皮膚では12-ヒドロキシエイコサペンタエン酸 (12-HEPE) が著増し、本代謝物の作用としてケラチノサイトに高発現するレチノイドX受容体aに作用することで好中球の遊走に重要なCXCL1やCXCL2の発現を抑制し、皮膚炎抑制活性があることがわかった。一方、亜麻仁油餌を摂取したマウスの母乳には別の代謝物である14-ヒドロキシドコサペンタエン酸 (14-HDPA)が著増することがわかり、母乳を介して仔の形質細胞様樹状細胞に作用することで、T細胞からの炎症性サイトカイン産生を抑制し、乳幼仔皮膚炎に対する抗炎症活性があることがわかった。また、糖尿病の発症の多くが加齢に関連する事実に着目し、免疫老化の観点から研究を遂行したところ、T細胞分化の場である胸腺が加齢により退縮するだけでなく、胸腺に特有の血管内皮細胞機能にも変容が生じることを見出し、加齢関連疾患への関与の可能性を提唱した。
2: おおむね順調に進展している
拡充したメタボローム解析基盤を駆使し、複数の抗炎症性脂質代謝物を同定することができている。
これまでに同定した複数の抗炎症性脂肪酸代謝物の糖尿病に対する作用を中心に今後解析を進める計画である。
新型コロナ感染症の拡大防止策実施による影響で予定した実験の一部を次年度に回すことにした。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (5件)
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