研究課題/領域番号 |
19K07620
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吉川 宗一郎 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (10549926)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 獲得免疫 / 感染症 / マスト細胞 / 好塩基球 / 補体 / マダニ |
研究実績の概要 |
古くから、多くの動物種において、マダニに2度以上刺されると、マダニの吸血量が大幅に減弱し、マダニによる病原体の伝播も起こらなくなることが知られていた。これまでの我々の研究から、マダニに対する免疫獲得には好塩基球とマスト細胞が必須であることがわかった。さらに、2度目以降の感染では好塩基球がマダニ感染局所へ浸潤し、マダニ吸血阻害を発揮するが、これには皮膚常在性ヘルパーT細胞由来のIL-3が必須であることを解き明かした。しかし、IL-3単独では好塩基球の皮膚浸潤は認められるものの、マダニ吸血部位の近くまで集積することはできず、抗マダニ免疫がうまく発揮されないことが示唆されていた。 2019年度の我々の研究により、補体欠損マウス(A/J)マウスではマダニに対する免疫の獲得ができず、さらには、好塩基球がマダニ感染皮膚へは浸潤するものの、マダニ吸血口の近くまで集積しないという、マスト細胞欠損マウスと似たフェノタイプを持つことを発見した。好塩基球にGFPを発現させたマウスを用いて生体イメージングを行った結果、A/Jマウスに補体C5を投与すると好塩基球がマダニ吸血口に集積し、抗マダニ免疫を発揮することがわかった。 2020年度では、補体と好塩基球の関連、マスト細胞と補体の関連を研究した。種々の補体を添加したところ、マウスの好塩基球ではC5aにおいてのみ強い走化性を示すことがわかった。つまり、A/Jマウス では、C5が欠損していることにより、マダニ吸血口へ好塩基球が集積することができないことが示唆された。次に、マスト細胞がA/Jマウスと似たフェノタイプを持つことから、マスト細胞が補体を産生しているのではないかと考えられてた。しかし、各種in vitro実験を行ったが、マスト細胞で補体(主にC5)はほとんど検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナの影響で、in vivoのマダニ実験を行っていた東京医科歯科大学にほとんど行けなかったこともあり、vivoの実験があまりできなかったが、昨年度にこれらの実験が当初の予定よりも進められたため、全体の計画としては送れずに進められている。
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今後の研究の推進方策 |
マダニは吸血とともに、マダニ毒素と呼ばれる唾液腺物質を分泌しており、この中に補体阻害タンパク質が存在していることが報告されている。マスト細胞は、ハチ、ヘビ、毒トカゲといった生物毒を中和するプロテアーゼを持つことが知られている。従って、マスト細胞はマダニの毒素も中和する可能性が考えられる。2021年度では、マスト細胞がマダニの毒素を中和し、マダニによる補体阻害の効果を薄めていると仮定し、実験を行う。具体的には、マスト細胞欠損マウスに、毒素中和に関与するとされる各種プロテアーゼを欠損させたマスト細胞を移植し、抗マダニ免疫がキャンセルされるプロテアーゼの同定を行う。また、マスト細胞のプロテアーゼがマダニのどの物質を分解しているのか、マダニ毒素の同定も試みる。
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