免疫系は病原体を認識し排除するが、自己を構成する分子や環境物質に対しては応答しない。このような免疫応答と免疫寛容のバランスが破綻すると、自己免疫疾患やアレルギー疾患が発症する。免疫恒常性を維持する機序として、制御性T細胞 (Treg) による免疫抑制があり、CD4陽性 (CD4 Treg) とCD8陽性 (CD8 Treg) の細胞系譜が存在することが知られている。本研究は、CD8 Tregの減少と自己免疫疾患の発症を認めるmoesin欠損マウスの病態解析やCD8 Tregの遺伝子発現解析を通して、CD8 Tregの生体内維持機構を解明することを目的とした。 CD8 Tregでのmoesin欠損により自己免疫疾患が現れるか調べるために、moesin floxマウスとCD8a-Creマウスを交配し、CD8 T細胞特異的にmoesin遺伝子を不活化したマウスを作製することを計画し、マウス受精卵にCRISPR/Cas9法を用いてmoesin遺伝子のエキソン4を挟み込む形でloxP配列を挿入したが、loxP配列が適切に挿入されたF0マウスは得られなかった。モザイクの可能性もあるため、さらにC57BL/6マウスと交配して得られたF1マウスを解析したが、moesin floxマウスは得られなかった。そこで、新たにmoesin flox readyマウスを導入し、このマウスをFlpマウスと交配することによりmoesin floxマウスを得ることとした。 CD8 Tregの遺伝子発現については、テトラマーを用いて単離した抗原特異的CD8 TregをRNA-Seqにより網羅的に解析し、その遺伝子発現パターンがバーチャルメモリーCD8 T細胞ときわめて類似することを見いだした。このことから、CD8 TregがバーチャルメモリーCD8 T細胞の一部であることが示唆された。
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