研究課題/領域番号 |
19K07626
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
森本 純子 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 助教 (20451396)
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研究分担者 |
松本 満 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 教授 (60221595)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | GPIアンカータンパク質 / Ly6C / 単球 / 大腸炎 |
研究実績の概要 |
Ly6ファミリー分子の一つであるLy6Cは、ミエロイド細胞、顆粒球、T細胞といった免疫細胞にその発現を認める。しかしながらその生理学的機能は多くが不明である。他方でT細胞におけるLy6Cの発現に関しては、CD8陽性T細胞上のLy6Cがホーミングに関与することや、CD4陽性T細胞においてはエフェクター機能に関与することが報告されている。そこでLy6C欠損マウス(Ly6C1及びLy6C2両欠損)における免疫細胞の分布及びT細胞応答の解析を行ったところ、野生型マウスと差はほとんど認めなかった。 IL-10欠損マウスで認められる大腸炎において腸管上皮細胞(IEL)に発現誘導がかかる遺伝子の一つとしてLy6Cが報告されている。IELのcell lineを用いた実験より炎症性サイトカイン刺激とともにLy6C抗体を用いてcross-linkingを行うと、CXCL5などのケモカインが産生されることが報告されていることから、Ly6C分子が大腸炎の病態形成においてなんらかの役割を担っていることが示唆されている。我々はこれまでに、定常状態においてはIELはLy6C分子を発現せず、粘膜固有層に浸潤するCD11b+CD11c+の免疫細胞においてLy6Cの発現を認めることを明らかにしている。本年度はデキストランサルフェイト(DSS)により誘導される大腸炎モデルを用いて、Ly6C分子が病態形成においてどのような役割を担っているのかを解明することを試みた。Ly6Cを全身性に欠失するLy6Cノックアウトマウス及び野生型マウスに3.5%DSS入り水を7日間飲水させ、その後通常水を飲水させた。その結果、野生型マウスでは5日目より体重減少が認められた。体重減少は8日目にピークとなりその後回復した。一方でLy6Cノックアウトマウスにおいては、野生型マウスより体重減少は若干遅延しておこり、体重減少は野生型マウスと比較して若干であるが軽度であったが死亡率および大腸の長さは野生型マウスと比較して差を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミエロイド細胞の多くはLy6Cを発現しているが単純な分化マーカーとして捉えられており、ミエロイド細胞の分化における機能は不明である。我々はCRISPR/Cas9システムを用いて作製したLy6C欠損マウスを用いて、種々の免疫細胞について解析を行った。骨髄や脾臓に存在する単球の数は野生型マウスとLy6C欠損マウス(Ly6C1及びLy6C2)間で差を認めなかった。また樹状細胞、顆粒球、T細胞、B細胞の数においても差は認めなかった。このことから、Ly6C分子が免疫細胞の分化そのものに関与している可能性は極めて低いことが示された。さらに腹腔洗浄液についても同様に解析を行ったがresidentマクロファージやmigratoryマクロファージの数にも変化は認められなかった。またLy6C欠損マウスより分離したT細胞をCD3及びCD28抗体を用いて刺激したところ、野生型マウスから分離したT細胞と同程度の増殖を示した。この結果よりT細胞の増殖においてLy6C分子の関与は低いことが示された。続いてLy6C1-flox-DTAノックインマウス(両アレルがノックインの場合、Ly6C1分子のみが欠損するマウス)を解析した結果、単球マクロファージが発現するLy6CはそのほとんどがLy6C2であることが分かった。 これまでの報告でIELを炎症性サイトカインとともにLy6C抗体を用いてcross-linkingを行うと、CXCL5などのケモカインが産生されることが報告されている。しかしながらDSSにより誘発される大腸炎モデルを用いた解析結果より、Ly6Cノックアウトマウスでは野生型マウスと比較して体重減少は若干軽度であることが示されたが、11日目における大腸の長さ及び死亡率は野生型マウスとLy6Cノックアウトマウス間でほとんど差を認めなかった。DSSによる大腸炎の誘発は腸管上皮細胞に障害が加わることが引き金となるため、今後はT細胞依存性の大腸炎モデルを用いてLy6Cの機能解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
DSSにより誘発される大腸炎モデルは腸管上皮細胞に障害が加わることが引き金となるモデルである。上述したようにLy6C欠損マウスにおいてDSSにより誘発される大腸炎の病態形成は野生型マウスと比較して差を認めなかった。そこで今後はT細胞依存的な大腸炎モデルを用いて解析を行いたいと考えている。T細胞及びB細胞が欠失したRag遺伝子欠損マウスにLy6C欠損マウスの脾臓から分離したナイーブT細胞を移入することで、大腸炎を誘発させる。このモデルを用いることでT細胞上のLy6C分子の機能を明らかにする。 Ly6C1とLy6C2分子は同じ遺伝子のallelic productsであると考えられてきたが、現在ではこれらは二つの異なる遺伝子であることが分かっている。私たちはこれまでLy6C1-flox-DTAノックインマウス(両アレルがノックインの場合、Ly6C1分子のみが欠損するマウス)を解析した結果、CD4とCD8陽性T細胞においてLy6C1とLy6C2の発現パターンが大きく異なることを明らかにしている。CD4陽性T細胞の場合、ナイーブはLy6C1をメモリーはLy6C2を発現している。一方でCD8陽性T細胞が発現するLy6CはLy6C2である。そこでLy6C1-flox-DTAノックインマウス(両アレルがノックインの場合、Ly6C1分子のみが欠損する)より分離したナイーブCD4陽性T細胞をRag遺伝子欠損マウスに移入することにより、T細胞におけるLy6C1遺伝子の機能を明らかにする。
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