加齢に伴う個体レベルでの免疫の機能的変化、いわゆる「免疫老化」は主に、特異的に増加するメモリーT細胞(Senescence-related T cell:Tsen)による獲得免疫能の異常と考えられている。しかしながら、Tsenの発生機序に関する分子機構は未解明である。本研究では、Tsen形質の獲得に関わるユビキチン関連因子の同定を通じて、タンパク質のユビキチン修飾系によるTsenを誘導する制御メカニズムを明らかにする。前年度までに、リンパ球欠損マウスにナイーブCD4 T細胞を移入し、恒常性増殖を誘導することによって、短期間でTsenを誘導する実験系を構築した。このシステムとレトロウイルスcDNA発現ライブラリーを組み合わせ、Tsen誘導制御因子のin vivoスクリーニングを実施した。その結果、Tsen化を促進する可能性を有する分子としてユビキチン様タンパク質リガーゼであるPIAS1を同定した。本年度は、PIAS1発現細胞が抑制性受容体の発現亢進や増殖抑制など、Tsenの特徴である疲弊形質を獲得していることを明らかにした。さらに、PIAS1によるTsen化の促進が抗腫瘍効果に及ぼす影響を検討した。卵白アルブミン(Ova)に特異的なT細胞受容体を発現するマウスより単離したCD8 T細胞にPIAS1を遺伝子導入した。これらの細胞を、Ovaを発現するB16メラノーマ細胞を播種したレシピエントマウスに移入し、腫瘍浸潤リンパ球の解析を行った。その結果、抑制性受容体の発現はPIAS1発現細胞で上昇すること、PIAS1発現細胞の腫瘍への浸潤はコントロールの細胞に比べ増加していること、Granzyme Bの産生はPIAS1発現細胞で低下していることを見出した。以上より、PIAS1の発現による疲弊形質の誘導はT細胞の抗腫瘍活性を低下させる可能性が示唆された。
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