研究課題
急性骨髄性白血病(AML)は、主に顆粒球やマクロファージなどのミエロイド系の前駆細胞が分化できずに増殖し続ける病気で、細胞の分化や増殖を調節する転写因子の機能変化によっても発症する。C/EBPalphaは、顆粒球分化に必須の転写因子で、その変異は、AMLの発症の一因である。Bach2は、ミエロイド分化を抑制することでリンパ球分化を促進する転写抑制因子である。C/EBPファミリーとBach2は、同一の標的遺伝子の発現を逆方向に調節し、ミエロイド系とリンパ球系の分化を調節している。申請者は、マウスの多能性前駆細胞で、Bach2が過剰に働くとc-kit陽性の未熟な細胞分画の増殖促進と、ミエロイド分化の抑制が生じることを見出した(未発表)。そこで、本研究では、BACH2がAMLの発症と維持に関わる可能性をヒト化マウスの実験系で解析することを目的とした。転写因子Bach2は、血球系統分化、B細胞やT細胞の最終分化など様々な機能が報告されているが、ヒトの細胞で機能を解析した報告はほとんどない。1年目はBACH2が、活性化T細胞でIFNgの発現を抑制することを明らかにし、マウスで見られるBach2の機能が、ヒトでも保存されている可能性を示唆した。今年度は、ヒト臍帯血から採取した造血幹細胞 (HSCs) で、BACH2タンパク質を欠損あるいは過剰発現させ、免疫不全のNSGマウスへ移植し、分化能を評価した。その結果、BACH2の過剰発現で、幼弱な赤血球が減少することがわかった。一方で、今回はHSCの移植後2週間で分化した細胞の評価を行ったが、B細胞の数が少なかったため評価ができなかった。最後に、BACH2を発現するAMLの探索を細胞内染色とフローサイトメトリー法で検出し、4検体について評価を終えている。
2: おおむね順調に進展している
第一の目的であったBACH2のヒト血球での機能の評価が予定通り進んでいる。BACH2は、T細胞の機能や、HSCsの分化能に寄与していることが明らかとなった。また、ヒトのAML検体でBACH2タンパク質を発現していることも明らかにした。最終年度にAMLにおけるBACH2の発現とC/EBPalphaやその他のDNA変異との関係を明らかにしていきたい。
今回、BACH2を過剰発現させたHSCを移植後、2週間で分化した細胞の評価を行い、赤血球分化についての変化を明らかにした。一方で、このタイミングではB細胞の数が少なかったため、B細胞分化の検証は難しかった。そこで、来年度は移植後3週間で評価することとした。現在まで、1組の実験を3週間で行ったが、その際はBACH2の過剰発現でB細胞の分化促進が見られていた。また、最終年度は、BACH2のAMLの発現量とC/EBPalphaやその他の遺伝子変異との関わりについて探索していく予定である。
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