研究課題/領域番号 |
19K07632
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
生谷 尚士 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 上級研究員 (40513718)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肺動脈性肺高血圧症 / ILC2 / IL-33 / IL-5 / 好酸球 |
研究実績の概要 |
本研究は指定難病である肺動脈性肺高血圧症(PAH: Pulmonary arterial hypertrophy)の治療法確立の基盤構築を目的としたものである。PAHは閉塞性の重度の肺動脈肥厚により肺動脈圧が上昇し、右心室に過度の負荷を強いる疾患である。これまでに研究代表者は動物モデルを作出し、アレルギーの発症に関わるサイトカインであるインターロイキンー33(IL-33)が長期に作用すると白血球の一種である2型自然リンパ球(ILC2: Type 2 innate lymphoid cell)と好酸球により重度の肺動脈肥厚が誘導されることを明らかにしている。肺動脈肥厚はILC2による血管周囲の炎症反応が起点となっており、本研究ではそのメカニズムを解明する。 まずILC2を含むリンパ球の移動に重要な接着分子であるインテグリンに着目した。インテグリンはα鎖とβ鎖の複合体でそれぞれが複数知られている。定常状態においてILC2は何種類かのインテグリン分子を発現しているが、今回IL-33の投与によって顕著に発現上昇を示すインテグリンのα鎖とβ鎖を同定した。これらインテグリン分子の阻害剤等を用いて検証したところ、肥厚血管周囲のILC2と好酸球は減少しており、それに伴い肺動脈肥厚が抑制されていた。これはILC2の移行メカニズムを解明する上で大きな一歩である。 また独自に選定した肺動脈肥厚に関与していると考えられる遺伝子の解析にも取り掛かった。当該遺伝子を欠損した動物を用いた試験により、この遺伝子は肺動脈肥厚の抑制に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、1、ILC2の移行メカニズムの解明と2、疾患関連遺伝子の機能解析、との2つを軸に研究を行っている。1、2の研究ともに順調に進捗している。 1の研究において、令和元年度の目標は、ILC2に発現し、肺動脈肥厚に関与するインテグリンのα鎖とβ鎖を同定することであった。当初の計画通りに進捗し、現在までにそれぞれ特定の分子を同定している。これら分子の機能を阻害剤等を用いて検討したところ、血管肥厚の抑制効果が観察された。すなわちこれらのインテグリンがILC2の移動、肺組織内での局在に関与している可能性が示された。 2の研究では、これまでに研究代表者が選定した肺動脈肥厚における関与が示唆された遺伝子群の中から抽出した遺伝子の役割を検討した。当該遺伝子を欠失する遺伝子改変動物を入手し解析した。IL-33による肺動脈肥厚を誘導したところ、肺組織のILC2と好酸球の増加が認められ、肺動脈肥厚も悪化していた。これらの結果から、この遺伝子は炎症反応や肺動脈肥厚の抑制に関与している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は順調に進捗しており、大きな研究計画の変更は必要ない。これまでに同定した分子や遺伝子の役割を明らかにし、研究を推進させる。 ILC2に発現するインテグリン分子の重要性をまず明らかにしたい。インテグリン分子には様々なリガンドが知られている。これらリガンドとの結合は細胞の移動に大変重要なステップである。したがって、まずはIL-33によってILC2に発現するインテグリン分子のリガンドの同定を試みる。リガンド分子の生体内の局在などの情報から、ILC2の移動過程での役割を推察していきたい。 疾患の発症に関与が示唆された遺伝子に関しては、肥厚の過程における作用点を明らかにしたい。まず肺組織において当該遺伝子の発現細胞の同定を行っていきたい。同定後、発現細胞の性質などを考慮し、遺伝子の機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
受託解析を依頼する予定であったが、必要量の検体を確保するために想定以上の時間を要した。そのため、次年度にそのための費用を繰り越した。次年度に請求した研究費の使用計画に大きな変更はない。
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