本研究は、指定難病である肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療法の基盤構築を目的として実施したものである。PAHは閉塞性の肺動脈肥厚により肺動脈圧が上昇し、右心室に過度の負荷を強いる疾患であり、その病態形成過程は依然不明である。これまでに研究代表者はインターロイキンー33(IL-33)が、長期間2型自然リンパ球(ILC2)と好酸球に作用すると、これらの細胞が肺動脈の周囲に集積し、重度の肺動脈肥厚を誘導することを報告している。この知見を基盤としILC2の集積過程のメカニズムの一端を明らかにした。本研究では、1,ILC2の移行メカニズムの解明と2,疾患関連遺伝子の機能解析、の2点についての研究を実施した。 1の研究では、免疫細胞の移動に係わる接着分子であるインテグリンに着目した。これまでの研究期間でIL-33によってILC2での発現上昇を示したα鎖とβ鎖を同定しており、今回さらなる解析を行った。これらの分子の遺伝子欠損マウスを利用し観察したところ、分子の機能が障害されると肺動脈肥厚が減弱することを突き止めた。肥厚血管周囲のILC2と好酸球も著減していた。また他の臓器からの移行が重要である可能性を示唆する結果も得られた。当該インテグリンの障害により、臓器間の移行が顕著に阻害されていた。 2の研究では、独自に選定した肺動脈肥厚に関与していると考えられる遺伝子の機能解析にも取り掛かった。これまでに当該遺伝子を欠損したマウスにおいてIL-33に誘導される肺動脈肥厚が促進していることを明らかにしている。従ってこの遺伝子産物は抑制的に作用していると推察される。本研究では、IL-33の投与によって生産する細胞の同定にも成功した。 本研究成果は、PAHの発症メカニズムの解明につながる新たな知見を提示するものである。また血管肥厚の抑制に関与する分子の同定は治療法の開発に大きく貢献するものである。
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