研究課題/領域番号 |
19K07633
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
築山 忠維 北海道大学, 医学研究院, 助教 (20399819)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Wnt / RNF43 / Fzd / 多段階発がん / がん治療 |
研究実績の概要 |
幹細胞特異的ユビキチンリガーゼであるRNF43はp53経路を抑制すること、Wnt受容体のFzdを分解すること、がん抑制遺伝子として機能していること、その遺伝子変異によってがん遺伝子へと転換することを報告してきた。しかしRNF43は比較的最近発見された分子であり、その機能にはまだ不明な点が多い。本研究では、①RNF43がp53経路を抑制する分子メカニズムの解明、②リン酸化スイッチによるRNF43機能調節の分子メカニズムを解明、③FGFシグナルとWntシグナルのクロストークによる恒常性維持メカニズムの解明、を当初の目的としていた。 研究初年度より令和2年度終了までに得られた結果として、 ②のRNF43のリン酸化スイッチによるWntシグナル調節機能についての研究成果を国際総合誌であるNature Communications誌に発表した。さらにRNF43のリン酸化スイッチの人為的な操作により変異RNF43の機能回復が認められたので、がんの予防や縮小を目指すような研究を行っている。 ③については、現在までにFGFがWntシグナルをβ-cateninの蓄積に依存しない形で増強することを見出した。しかし一方で、この増強はFGF-Ras-MAPK経路とTcf/Lefに依存していることも明らかにした。今年度はこれらの結果をもとに、FGF刺激が核内でβ-cateninに結合するタンパク質の複合体形成に影響する可能性を質量分析器を用いて検討した。その結果、FGF刺激によってβ-cateninへの結合が変化する核内タンパク質を複数同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度より引き続き研究を行ってきた、RNF43のリン酸化によるWntシグナル制御機構の解明については、Wnt受容体の分解によるがん抑制機能が分解酵素自身のリン酸化状態に連動した機能スイッチによって可逆的に調節されていることを証明し、さらにその調節メカニズムのがん治療への応用の可能性も提示し、論文発表を行った。 また、昨年度までにFGFの下流でWntシグナルを促進する分子経路を同定することが出来たが、その際に細胞内でエフェクター分子であるβ-cateninが蓄積するというこれまでのモデルは否定され、FGF刺激により核内複合体に変化が起こることで転写活性が上昇するというモデルを考慮することが出来た。今年度はFGF刺激により核内で惹起されるタンパク質結合の変化も観察できたので、本研究計画の前半から中盤については順調に進展した考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
RNF43のリン酸化によるWntシグナル制御機構のがん治療への応用については、これまでにRNF43の遺伝子変異によって引き起こされる局在異常が細胞のがん化には重要であること、また局在が異常な変異RNF43ではリン酸化スイッチが切れていること、この変異RNF43のリン酸化状態を模倣すれば局在が異常なままでもがん抑制遺伝子としての機能を回復することが分かった。そこで今後は局在異常を起こしたRNF43をその非正常な局在下でリン酸化する手法の開発を行う。今年度の研究においてすでに局在異常を起こしたRNF43の機能を部分的に回復できる実験的手法が見出されているので、来年度はその手法がにより実際にがんの抑制について効果的か検討を行う。 またWnt-FGFのクロストークについては、β-catenin-Tcf/Lef複合体と質量分析器で同定した結合タンパク質がFGF刺激依存的に複合体を形成するかの確認を行う。また各種阻害剤により、がんにおいてこのクロストークを断ち切ることでがんの縮小に応用可能かの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究年度において2篇の論文を発表した。その際に複数回の修正投稿が予想されたため、それぞれの成果について論文投稿料と英文校正料を余裕を持って確保していた。しかし幸運なことに予想よりも少ない修正投稿回数で論文が受理されたため、余剰金が発生した。論文の受理と投稿料と英文校正代金の支払いが年度末に近く全額余りなく年度中に使用することが困難であったため、翌年度の研究へ余剰分を繰越し、試薬や抗体の購入費用として使用する予定である。
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備考 |
(2)全文:Molecular basis underlying colorectal cancer revealed
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