研究課題/領域番号 |
19K07640
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡田 宣宏 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 助教 (60742377)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乳がん / 細胞系譜 |
研究実績の概要 |
乳がんは、悪性化進展過程でLuminalからBasalへ細胞系譜を転換させることにより治療薬抵抗性を獲得し、治療を困難にしていると考えられる。しかし、乳がんが悪性化進展過程で細胞系譜転換を起こすメカニズムは明らかになっていない。我々はこれまでに、Luminal、Basal細胞系譜間でスプライシングバリアントの発現パターンをスイッチさせている遺伝子NFYAを同定している。さらに、NFYAの各バリアントがLuminalからBasalへの細胞系譜転換を段階的に制御していることを明らかにした。しかし、NFYAによる細胞系譜転換の制御メカニズムは不明である。本研究は、乳がん悪性化進展過程でのNFYAによる細胞系譜転換の制御機構を明らかにすることを目的とする。 本研究では、培地中に脂質を添加し、細胞培養を行った結果、NFYA欠損により低下した細胞増殖およびスフィア形成能を回復させることが確認できた。さらに、フラックスアナライザーを用いて、細胞内における脂肪酸β酸化を測定したところ、NFYA欠損細胞において脂肪酸β酸化が低下していることを明らかにした。これらの結果から、NFYAは脂質代謝を制御し、乳がん細胞における脂肪酸β酸化を介したエネルギー産生を促進させることで乳がんの悪性化に寄与していることが示唆された。さらに、NFYAによる脂質代謝制御メカニズムを明らかにするために、NFYAが発現制御を行なっている遺伝子の探索を行なった。その結果、NFYA欠損細胞において、脂肪酸合成酵素(FASN)の発現が低下していることを明らかにした。今後、ChIPアッセイやin vivoマウスモデルを用いた解析を行うことで、より詳細なメカニズムの解明につなげる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年度目までに目標としていたNFYAスプライシングバリアントによる乳がん悪性化進展制御メカニズムの解明について、脂質添加による細胞培養系を用い、脂質代謝の制御が重要であることを明らかにすることができた。さらに、次世代シーケンサー解析から、NFYAによる制御因子として脂肪酸合成酵素(FASN)を同定することができた。また、脂肪酸β酸化関連酵素群の発現が全体的に低下していることも確認できた。以上のように、現在まではおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究により、NFYAが脂質代謝制御を介し、Basal乳がん細胞の増殖に影響を与えていることを明らかにできたので、今後NFYAによる脂質代謝制御の細胞系譜転換制御機構への寄与をin vivoマウスモデルを用い明らかにしていく。また同時に、NFYAおよび脂質代謝の抑制が、治療薬抵抗性乳がんに対する治療効果をもたらすか検討を行う。今年度までの研究で、今後使用するin vivoマウスモデルは構築済みであり、問題なく遂行できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、NFYAの転写標的遺伝子の同定後、ChIPアッセイによる確認を計画していたが、細胞培養系による表現系解析を優先した結果、まだChIPアッセイを開始できていない。次年度に繰り越した研究費により、ChIPアッセイに使用するプライマーを購入する予定である。
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