研究課題/領域番号 |
19K07643
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
相原 仁 徳島大学, 先端酵素学研究所(プロテオ), 特任助教 (80587717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乳がん |
研究実績の概要 |
我々は、本研究開始以前に、エストロゲン陽性(ER+ ルミナールタイプ)乳癌細胞の細胞質において、乳癌特異的タンパク質BIG3がアンカータンパク質として癌抑制因子PHB2と会合するため、PHB2の核移行が抑制され、結果的にER標的遺伝子の転写抑制が阻害され、細胞増殖が維持されることを明らかにした。対する治療策として、BIG3-PHB2相互作用を阻害する分子内架橋ペプチドstERAP(細胞膜透過性およびプロテアーゼ抵抗性を有する)を開発し、PHB2の核移行抑制の解除、腫瘍形成の抑制を証明し、非臨床試験を進めている。本研究の最終目的は、予後不良かつ治療標的の乏しいトリプルネガティブ乳癌(TNBC)細胞におけるBIG3の病態生理的役割を明らかにし、治療指針を導く基礎的知見を得ることである。本研究開始前に、TNBC細胞においてBIG3およびPHB2はミトコンドリアに局在することが判明していたため、BIG3-PHB2のミトコンドリアにおける機能の解析に焦点を当て、以下のことを明らかにした。①BIG3ノックダウンおよびstERAP処理によって細胞増殖が抑制されるとともにミトコンドリアの形態異常が観察された。②プロテオミクスアプローチによるBIG3複合体構成因子の探索の結果、種々のミトコンドリア因子や細胞骨格制御因子が同定され、ミトコンドリア内膜から外膜に横断的にBIG3複合体が存在することが予想され、またstERAPによってこれら複合体因子が解離することが判明した。③BIG3ノックダウンおよびstERAP処理によってミトコンドリア膜電位変化などの機能異常が見いだされた。以上の結果から、TNBCにおいてBIG3-PHB2を主軸とした複合体は、ミトコンドリアの構造・機能の安定維持に必須であり、この脆弱性を標的としたTNBC治療戦略の可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度においては、研究実績概要に記載した項目①-③について、下記記載の通り当初の予想以上の成果・意義が得られ、ミトコンドリアにおけるBIG3-PHB2複合体病態生理機能を解明するにあたり、次段階の仮説を立て、研究が進展しているためである。 ①BIG3-PHB2相互作用がTNBC細胞の増殖においても必須な役割を果たすことが証明された。またBIG3-PHB2はミトコンドリアに局在するため、ルミナールタイプ乳癌細胞における細胞質でのBIG3のアンカー機能とは別の新機能の存在が見いだされた。 ②プロテオミクス解析の結果から、当初はBIG3結合因子として上位のミトコンドリア膜に局在する1因子に焦点を絞り、BIG3との相互作用解離を標的としたペプチド創薬を目的として、BIG3との結合部位の同定をBIG3側および結合因子側から試みた。しかしながら、結合部位が複数個所存在することが判明し、標的ペプチド配列を絞ることが困難であることが予想された。また過去の先行研究から、当該BIG3結合因子のミトコンドリアでの役割、他のミトコンドリア因子との相互作用の報告から、BIG3-PHB2複合体は予想よりさらに多くの因子と複合体を形成することが推測され、これら候補となる因子群を同定した。さらにBIG3結合因子として上位にあった細胞骨格制御因子の標的阻害剤によって、stERAPによるミトコンドリア形態異常が回復することが判明した。さらに他のオルガネラとの相互作用の重要性を示唆する結果も得られた。 ③BIG3ノックダウンおよびstERAP処理によってミトコンドリア機能異常が認められたため、BIG3-PHB2複合体がミトコンドリア代謝を制御する可能性が想定されたため、メタボローム解析実施に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの成果をベースに、 1)同定したBIG3複合体構成因子群について、個々の機能の生化学的解析をBIG3およびPHB2ノックダウンあるいはstERAP処理条件を比較することによって、BIG3複合体がミトコンドリア機能を癌細胞特異的にどのように制御するか、その分子メカニズムを明らかにする。 2)BIG3結合細胞骨格制御因子によるミトコンドリア形態制御のメカニズムを明らかにするため、BIG3結合細胞骨格制御因子あるいはBIG3と細胞骨格の相互連携作用を橋渡しするミトコンドリア外膜レセプターを同定する。 3)BIG3ノックダウンおよびstERAPによるミトコンドリア機能異常を網羅的に調べるため、メタボローム解析を遂行し、ミトコンドリア機能異常から細胞増殖抑制に繋がる分子メカニズムの考察を導く基礎データを得る。 以上1)-3)よりTNBC癌細胞におけるBIG3-PHB2複合体の病態生理的意義の解明を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由1:当初予定していた学会参加を、研究遂行を優先させるために見送ったことで、計上していた往復航空券および宿泊費を使用しなかった。 理由2:研究成果から実験すべき項目の優先順位を変更し、計上していた試薬の購入を次年度に変更した。 使用計画:本年度に予定している網羅的解析などで生じる受託解析やそれに伴う試薬の購入に充てる。
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