研究課題/領域番号 |
19K07644
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
草野 秀一 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 准教授 (10350662)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Hypoxia / HIF-1 / HTLV-1 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
多くのヒト発がんウイルスは、低酸素誘導因子(HIF)-1αの転写・翻訳・分解を制御することで、細胞がん化関連遺伝子の発現を促進することが知られてい る。ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)-1感染ATL細胞株においても正常酸素圧下においてHIF-1αの細胞内発現量が亢進していることが報告されているが、HIF-1αが感染細胞のがん化や ウイルスゲノム複製にどのような役割を演じているのか、未だに明らかになっていない。 本研究では、HTLV-1タンパク質Taxが標的とする宿主因子であるHICと HTLV-1タンパク質HBZが、HIF-1αの機能にどのような影響を及ぼすのかをまず検討した。昨年度の研究により、 宿主HICはHIF-1α及びHIF-1βと相互作用し、そのヘテロ二量体形性を阻害し、HIF-1α依存的な低酸素誘導因子応答配列(HRE)からの転写を強力に抑制する事が明らかにしたが、内在性のHIF-1αの影響が解析に及ぼす影響が大きかったため、本年度は、解析を容易にすることを目的に、まずCRISPR/Cas9ゲノム編集法を用いてHIF-1αノックアウト細胞株を複数樹立した。そして、それらの細胞株などを用いた解析から、HTLV-1がコードする発がんタンパク質であるTaxとHBZ共に、単独でHREからの転写を強力に抑制する事及びHICと同様にTaxとHBZ共にHIF-1α及びHIF-1βと細胞内で複合体を形成する事が明らかになった。 HTLV-1による発がんに関与すると示唆されているTaxとHBZ共にHIF-1αの機能を抑制する事は、正常酸素圧下において発現しているHIF-1αがHTLV-1感染細胞において負の影響を及ぼしている可能性を示唆し、非常に興味深いものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で、研究に従事する時間が制限されたことに加え、実験に用いる試薬・器具などの入手に遅れが生じたため、研究の進展にやや遅れが見られている、まずは、投稿を準備しているHICとHIF-1に関する解析結果を論文としてまとめたいと考えている。 また、HIF-1αノックアウト細胞株を樹立したことにより精度の高い解析が可能になり、予想に反してTax自身がHIF-1αと相互作用し、その機能を抑制する事が明らかとなり、HTLV-1にとってHIF-1αの発現が負の影響を及ぼしている可能性が出てきたため、研究の進行に関して軌道修正が必要となったため。
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今後の研究の推進方策 |
①:宿主HICタンパク質が、相互作用を介してHIF-1αの機能を抑制することを見出した研究結果を論文として発表する。 ②:TaxとHBZが相互作用を介してHIF-1αの安定性、細胞内分布、二量体形成などに及ぼす影響を解析し、TaxとHBZによるHIF-1α依存的な転写抑制機構を明らかにし、その後、低酸素状態に於いてTaxとHBZが影響を及ぼす細胞内シグナル系を同定する。 ③:HTLV-1感染細胞株でHIF-1αをノックアウトもしくはノックダウンし、細胞増殖、宿主遺伝子発現及びウイルスの複製に及ぼす影響を解析する。 ④:③で見出されたHIF-1αの機能に、Tax及びHBZの発現がどのように影響を及ぼすのかを解析することで、HTLV-1感染細胞において、Tax及びHBZがHIF-1αの機能を抑制する意義を明らかにしたい。
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