研究課題/領域番号 |
19K07649
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
増井 憲太 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (60747682)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膠芽腫 / mTORC2 / エピジェネティクス / DNAメチル化 / DNMT3A / 神経回路 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒト腫瘍の中でも最悪性度の脳腫瘍である膠芽腫 (グリオブラストーマ) において、がんで注目されるエピジェネティクス変化の一つである、DNAメチル化の新規制御機構を明らかにすることで、新たな治療戦略の構築を狙う試みである。初年度には、膠芽腫で高頻度に観察される遺伝子異常の一つである、EGFR (epidermal growth factor receptor)-mTORC2 (mechanistic target of rapamycin complex 2) 経路のシグナル異常が、DNAメチル基転移酵素の一つであるDNMT3Aの発現制御を介してDNAメチル化を減少させる、新規のがんDNAメチル化制御機構を明らかとしている。 上記の結果に基づき、本年度は、mTORC2依存的なDNAメチル化の減少 (DNA低メチル化形質) が腫瘍の病態に及ぼす影響について、同機序により制御される具体的な遺伝子群の探索を、DNA メチル化アレイ (Infinium Methylation EPIC array) による網羅的解析により評価した。興味深いことに、gene ontology解析の結果、mTORC2依存的なDNA低メチル化により有意に制御される遺伝子群の一つとして、神経回路網の形成や神経発生に関与するグループが同定された。 これらの結果から、悪性脳腫瘍である膠芽腫においては、EGFR-mTORC2の異常シグナルにより誘導されるDNA低メチル化形質が、腫瘍細胞-腫瘍細胞間、または腫瘍細胞-神経細胞間のネットワーク形成に重要な役割を果たしていることが示唆される。また、将来的な診断および治療戦略を考える際に、膠芽腫におけるエピジェネティクス変化 (DNA低メチル化形質)、さらには腫瘍細胞間ネットワークの破綻を狙う、新規治療戦略の構築へとつながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、われわれがこれまでに明らかにしてきた、膠芽腫細胞ではEGFR-mTORC2経路異常によりDNA低メチル化形質が誘導されるという発見に基づき、実際にmTORC2によりDNA低メチル化を介してエピジェネティック制御を受ける遺伝子群の網羅的解析を行った。同解析により、EGFR-mTORC2の異常シグナルにより誘導されるDNA低メチル化形質が、腫瘍細胞-腫瘍細胞間、または腫瘍細胞-神経細胞間のネットワーク形成に重要な役割を果たしていることが示唆され、膠芽腫の新たな病態が明らかになったと考えている。現在は、これらのデータを基に、網羅的解析に基づくgene ontology解析で同定された神経回路網の形成や神経発生に関与するグループ内で、特に腫瘍細胞の生存に重要と考えられる個別の標的遺伝子を探索している。さらには、それらの標的遺伝子群が腫瘍細胞の表現型に与える影響を解析する機能実験を計画中であり、研究全体としてはおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、ヒト膠芽腫細胞において、mTORC2がDNAの低メチル化 (DNA低メチル化形質) を誘導するという新規の病態を明らかとしてきたが、引き続きDNAメチル化状態の網羅的解析により、シナプスや神経伝達物質等を介する腫瘍細胞-腫瘍細胞間、または腫瘍細胞-神経細胞間のネットワーク再編成が促進されるという、興味深い可能性が示された。今後はこれらの結果に基づき、mTORC2依存的なDNA低メチル化形質、および腫瘍細胞間ネットワークの改変が、腫瘍の表現型・悪性化にどのように関与しているのか、同機序により制御される具体的な遺伝子群を標的とすることで解明を試みる。われわれは、mTORC2によりエピジェネティック制御を受け、腫瘍細胞間ネットワークの改変に関与しうる遺伝子群候補の絞り込みを行っており、これらの遺伝子群が、mTORC2の活性化状態により、プロモーター領域のDNAメチル化および遺伝子発現に変化が生じるのか、methylation-specific PCR/sequencingやMeDIP (methylated DNA immunoprecipitation)-PCR等の手法で個別に精査を行う。さらには、同定できた標的遺伝子、すなわちmTORC2により低メチル化を介するエピジェネティック制御を受ける遺伝子が、新たな診断および治療標的となりうる可能性を、ヒト腫瘍サンプルやマウス腫瘍モデルを用いたin vivo解析により評価を行い、腫瘍化促進機序の解明や治療・臨床応用への足掛かりとなり得る、基礎データの取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費 (消耗品費) として計上していた未使用分であり、次年度の物品費として使用予定である。
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