研究課題
本研究の目的は、タンパク質恒常性の破綻によるがん増悪メカニズムを解明することにある。がん細胞においては、プロテアソームによるプロテオスタシスが破綻していることが知られているが、その分子メカニズムは不明なままであった。申請者らはこれまで、転写因子NRF1(NFE2L1)が26Sプロテアソームを発現誘導し、ユビキチン依存的なタンパク質分解を維持することを報告していた。近年、NRF1関連因子であるNRF3(NFE2L3)が20Sプロテアソーム構築因子であるPOMPを転写することでユビキチン非依存的なタンパク質分解を活性化し、腫瘍増大に寄与することを発見した(NRF3-POMP-20S活性化経路)。さらに、NRF3はRNA結合因子CPEB3発現を介してNRF1翻訳を抑制することで、26Sプロテアソーム活性を低下させる可能性も見出した(NRF3-CPEB3-26S抑制経路)。これらの知見から、NRF3はユビキチン依存的および非依存的なタンパク質分解経路の両方を制御することでタンパク質恒常性を変化させ、がん増悪に寄与していると仮説を立てた。本年は、NRF3-CPEB3-26S抑制経路の分子生物学的な検証をおこなった。その結果、NRF1とNRF3のダブルノックダウンにより、プロテアソーム関連遺伝子の発現や活性、プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブへの抵抗性が有意に低下した。さらに、CPEB3がNRF1-3'UTRに結合しNRF1 mRNA上のポリソーム形成を減少させることでNRF1の翻訳を抑制することも明らかにした。加えて臨床分析から、大腸癌患者の予後がCPEB3 / NRF3 mRNA高発群で低下することも見出した。これらの結果は、NRF3-CPEB3-NRF1翻訳抑制軸は、癌細胞の生存・増殖だけでなく、癌患者の予後にも関わる新たなプロテアソーム活性調節メカニズムであることを示している。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定よりも早く論文化まで進むことができ、4月17日現在でリビジョンの再投稿を完了しているため。
今後は当初の予定を前倒しして、遺伝子改変マウスを用いた解析を進める。当初はNrf3ノックアウトマウスを使用する計画であったが、本年の知見から、Nrf1がNrf3ノックアウトを補完する可能性も考えられたため、Nrf3の全身性トランスジェニックマウスを用いて解析を進める。具体的には、腸管組織でのCPEB3やNrf1発現、プロテアソーム活性、および腫瘍形成を調べる。また新たな展開として、タンパク質分解経路や腸管がんのNrf3の標的の機能を探索する。現在すでに複数のNRF3標的経路やがん種を見出し解析を進めている。
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