研究実績の概要 |
これまでにトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β関連分子として、独自に見出してきた転写因子MafKおよびMafKによって誘導される遺伝子として報告した膜糖タンパク質Glycoprotein NMB (GPNMB)が、上皮間葉転換(Epithelial-mesenchymal transition; EMT)、細胞運動能、腫瘍形成、さらには幹細胞様特性の獲得に関与していることを報告してきた(Okita et al, Sci Signal, 2017, Chen et al, Cancer Res, 2018, Xie et al, Cancer Sci, 2019)。本研究では、MafKおよびGPNMBに着目し、腫瘍形成能、細胞運動能、およびがん幹細胞様特性の獲得における機序の解明を主な目的としている。 本年度は、これまでに作製したMafKまたはGPNMBの変異体発現細胞株を用いて、MafKおよびGPNMBの機能解析を引き続き行った。その中で、GPNMBの翻訳後修飾が起こらなくなる変異体では、腫瘍形成、スフェア形成および細胞運動能の亢進が抑制されることを明らかにし、論文投稿中である。またGPNMBの変異体発現細胞株を用いたRNAシークエンス解析を実施した。 加えて、これまでMafKおよびGPNMBの腫瘍形成などへの影響は、主に乳がん細胞を用いて調べてきたが、他のがん種でもGPNMBの腫瘍形成または細胞運動能への影響を解析することができた。さらに樹立したGPNMBノックダウン細胞株を用いてRNAシーケンス解析を行った、今後その結果をもとにGPNMBによる腫瘍形成能などに関与するメカニズムの解析につながるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、MafKまたはGPNMBの変異体発現細胞株を用いて、MafKおよびGPNMBの機能解析を引き続き行った。その中で、GPNMBの翻訳後修飾が起こらなくなる変異体では、野生型GPNMBによる腫瘍形成、スフェア形成および細胞運動能の亢進が抑制されることを明らかにできた。またGPNMBノックダウン細胞株を樹立することができ、変異体発現細胞株やノックダウン細胞株を用いたRNAシークエンス解析を実施した。それらの結果をもとに今後、腫瘍形成や幹細胞様特性の獲得に関与する分子機構の解明へつながることが期待される。 加えて、3次元細胞培養法の検討にも注力し、がん細胞の3次元培養法に関する論文を発表した(Okita et al, Genes to Cells, 2021)。現在患者から採取したがん組織の3次元培養を試みており、本年度発表した培養法を応用することより、生体に近い状態でのMafKおよびGPNMBの機能解析が可能になるように準備を進めることができたと考える。
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