研究実績の概要 |
これまでにトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β関連分子として、独自に見出してきた転写因子MafKおよび、MafKによって誘導される遺伝子として報告した膜糖タンパク質Glycoprotein NMB (GPNMB)が、上皮間葉転換(Epithelial-mesenchymal transition; EMT)、細胞運動能、腫瘍形成、さらには幹細胞様特性の獲得に関与していることを報告してきた。本研究では、MafKおよびGPNMBに着目し、腫瘍形成能、細胞運動能、およびがん幹細胞様特性の獲得における機序の解明を主な目的としている。 今年度は、これまでに作製したMafKまたはGPNMBの変異体発現細胞株を用いて、MafKおよびGPNMBの機能解析を引き続き行った。その中で、GPNMBのセリン残基をアラニン残基に置換することでリン酸化が起こらなくなった変異体では、腫瘍形成、スフェア形成および細胞運動能の亢進が抑制されることを明らかになった。また、この変異体発現細胞では、がん幹細胞遺伝子の発現が低いことを見出した。これらの成果をまとめ学術誌に論文を発表した(Wang et al, Cancer Sci, 2021)。 今までは乳がんモデルを用いた研究が多かったが、喉頭がんにおけるGPNMBの働きについての検討も行い、学術誌に論文を発表した(Manevich et al, Cancer Sci, 2022)。この研究により、喉頭がん細胞においてGPNMBは、細胞増殖、スフェア形成、腫瘍形成および細胞の運動に関与していることが示され、がん幹細胞性に関与する可能性が示唆された。
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