研究課題/領域番号 |
19K07659
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂本 毅治 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (70511418)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん / 転移 / 化学療法 |
研究実績の概要 |
細胞傷害性の抗がん剤はその汎用性から多くのがんでいまだに第一選択薬として使用されているが、近年、抗がん剤投与によりむしろ転移が促進される「化学療法誘導性転移」という概念が提唱され、抗がん剤の治療効果を下げる一因として着目されている。しかしながら、化学療法誘導性転移のメカニズムの詳細は不明であり、有効な予防法が開発されていない。申請者は転写因子HIFの活性化分子Mint3の研究の中で、Mint3 KOマウスでは化学療法誘導性転移がほぼ完全に抑制されることを偶然見出した。そこで本研究では宿主Mint3による化学療法誘導性転移惹起のメカニズム解明を通じて、抗がん剤の治療ポテンシャルを最大化するための分子基盤の創造と化学療法誘導性転移の予防法の確立を目指す。 2019年度は、予備実験の再現性の確認及び一般化可能かについて重点的に解析を行った。その結果、マウス乳がんE0771、Py8119細胞、ならびにマウス肺がんLLC細胞のいずれにおいても、野生型マウスではドキソルビシン、パクリタキセルの前投与により肺転移が亢進した(化学療法誘導性転移)のに対し、Mint3 KOマウスではこれらの転移亢進が観察されなかった。抗がん剤投与が肺組織に及ぼす影響についてAmpli-Seqを用いた遺伝子発現解析を行ったところ、野生型マウス肺組織でドキソルビシン、パクリタキセル両者で誘導される遺伝子Xが、Mint3 KOマウスの肺組織ではほとんど誘導されてこないことが分かった。この遺伝子Xは細胞外分泌タンパクをコードしているため、タンパクXに対する中和抗体を投与したところ、野生型マウスにおいても化学療法誘導性転移が抑制されることが明らかとなった。以上より、宿主Mint3は分子Xの肺組織での発現誘導を介して化学療法誘導性転移を促進していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、予備実験の再現性、および一般性を2019年度内に完了することが出来た。また、2019年度内で宿主Mint3による化学療法誘導性転移のメカニズムの解明につながる可能性の高い分子Xを同定することが出来、2020年度以降への研究がスムーズに進められる成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、肺組織における抗がん剤投与後の分子X産生細胞の同定を免疫染色などで試みる。分子X産生細胞が同定されれば、その細胞種特異的Mint3 KOマウスを作製し、分子Xの発現誘導ならびに化学療法誘導性転移が抑制されるかについて検討することで、特定の細胞種でのMint3が分子Xの発現誘導、化学療法誘導性転移に関わるかを明らかにする。もし、特定の細胞種でのMint3が分子Xの発現に直接かかわる場合、どのようにMint3によって分子Xの発現が誘導されるかのシグナル経路を明らかにする。分子X産生細胞と、分子Xの発現を引き起こすMint3発現細胞が異なる場合、骨髄移植や細胞種特異的Mint3 KOマウスを駆使し、分子X発現に重要なMint3発現細胞を同定し、その細胞間コミュニケーションのメカニズムについて検討を行う。これらのメカニズム解明と並行して、自然転移モデルにおいても宿主Mint3依存的な化学量誘導性転移が観察されるかについても検討を行い、実際のがん進展における化学療法誘導性転移の重要性、ならびにMint3阻害による転移抑制効果の重要性について検討を進める。これらの研究が順調に進めば、ヒト臨床検体を用いて検証可能な実験がないか検討を行い、実施可能な実験があれば、ヒト臨床検体を用いた研究を行うための手続きに着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験試薬について、いくつかの試薬が輸入手配で年度をまたぐことになり、研究代表者の異動と重なり納品が出来なかったため次年度購入することにした。また、当初参加予定であった3月の学会、研究会がが新型コロナウイルスの影響で中止となったため、旅費、その他、に計上していた予算が未執行となった。旅費については新型コロナウイルスの影響で2020年度に執行出来るかは不明な点があるが、リモート会議が出来る環境を整えるなど本来の情報収集や研究打合せの目的に合致した形で執行する予定である。
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