研究課題
化学療法による転移に関わる分子機構の解明を目指し研究を行った。令和2年度では遺伝子改変マウスを用いた実験がほとんど行えなかったため、前年度で同定した宿主Mint3特異的に肺に誘導され、化学療法誘導性転移を促進する分子Xの作用機構について野生型マウスを用いて解析を進めた。分子Xのレセプターの可能性がある分子が複数あったので、各分子に対してCRISPR/Cas9でノックアウトさせたE0771細胞を作製し、化学療法誘導性転移が惹起されるかを解析した結果、分子Xのがん細胞側のレセプターとして分子Yを同定した。また。分子Xの発現機構について解析を進めた。当初、マクロファージ特異的Mint3欠損マウスで化学療法誘導性転移が起きなくなったことから、分子Xもマクロファージに発現していると考えたが、抗がん剤投与後のマウス肺の免疫染色ならびに肺から単離したマクロファージの分子X発現をウエスタンブロッティング、qPCRで解析したが、分子Xはマクロファージにはほとんど発現していなかった。肺組織での免疫染色の結果、分子Xを発現している細胞の形態から、肺胞2型上皮細胞での発現が示唆された。そこで、肺胞2型上皮細胞のマーカーproSP-Cと分子Xの共染色を行ったところ、両タンパクが同一の細胞で染色される像が得られた。これらの結果から、抗がん剤投与により活性化されたマクロファージが、Mint3依存的に肺報2型細胞に分子Xを誘導させることが、化学療法誘導性転移のメカニズムになることが示唆された。
4: 遅れている
令和2年度に金沢大学に異動したが、その際新型コロナウイルスによる非常事態宣言とぶつかってしまい、新規の動物実験の受付が7月までできなかった。また、動物実験の承認後東大から持ってきたマウス凍結胚の生体復元を行ったが、動物施設の手技的な問題で著しく復元効率が悪く、1-2匹しか目的のマウスが得られなかったため、野生型マウスと交配してヘテロマウスを作ってから再度ホモ変異マウスを作製するなど、余計な交配手順が必要となり、遺伝子改変マウスの実験が大幅に遅れている。
野生型マウスを用いて出来る実験に関しては先行して行えるものを積極的に行い、遺伝子改変マウスの準備が出来る前に一通りのデータを取得するように研究の方針を変更する。分子Xがマクロファージからどのような刺激を受けることで肺胞2型上皮細胞から産生されるのか、抗がん剤によるどのような刺激がマクロファージを活性化させるのかなど、メカニズムに関して不明な点があるので、これらについて野生型マウスを用いて解析を進める。遺伝子改変マウスに関しては、通常のノックアウトマウスの産生は軌道に乗ってきたので、プライマリーカルチャーでの細胞レベルの解析を先に進め、まだ交配途中のコンディショナルノックアウトマウスを用いた実験は最後に追加する。ある程度分子機構が明らかになれば、関連する分子の発現についてデータベースを用いた解析でヒトのがんの予後、転移の有無などとの相関について解析を進める。
コロナ禍の影響で遺伝子改変マウスを用いた動物実験が大幅に遅れ動物実験に関連した予算の執行が出来なかった。また、学会旅費を計上していたがコロナ禍で学会が中止、オンライン開催になったため旅費を執行出来なかった。動物実験が少しずつ動きだしており、次年度には動物実験に必要な経費は順調に執行できる予定である。また、旅費に関しては引き続きコロナ禍で出張の制限があるため学会参加の旅費の執行が当初予定より少なくなることが予想されるが、その分を共同研究者とのサンプルの輸送や論文の英文校正、掲載料などに回す予定である。
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月刊「細胞」2021年 2月号
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