研究課題/領域番号 |
19K07662
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
吉田 利通 三重大学, 医学系研究科, リサーチアソシエイト (80166959)
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研究分担者 |
野呂 綾 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (00747173) [辞退]
石飛 真人 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (40443535)
小塚 祐司 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (50378311)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 癌細胞 / 酸性環境 / 癌進展 / 癌転移 |
研究実績の概要 |
本研究では、乳癌細胞をアシドーシス下 (pH 6.4) で培養した時に、上皮-間葉移行現象(EMT)を引き起こすことより、酸性環境が癌進展を促進する可能性について研究を行っている。前年までに、酸性環境が引き起こす細胞内のシグナリングについて検討を行い、低pH下で培養したMCF-7細胞ではfocal adhesion に共局在するインテグリンαvβ6が増加することに加え、低pH刺激はFAK/Srcのリン酸化を誘導しており、FAK/Srcが主なシグナルであることが判明している。このリン酸化の下流にあるコルタクチンはリン酸化されており、Focal adhesionに集積していた。コルタクチンは浸潤のための構造であるInvadopodiaの構成成分であり、酸性環境ではinvadopodiaが形成され、浸潤能が向上していることが示唆された。このため、マトリゲルを塗布した有孔膜を用いたTranswell migration/invasion assayを行い、pH6.4ではマトリゲルを浸潤・通過した細胞が有意に多いことを明らかにした。また、FITCでラベルしたゼラチンを基質として、癌細胞をそのうえで培養し、マトリックス分解能をみてみたところ、pH6.4の培養条件では蛍光標識の基質の分解する癌細胞が明らかに増加していた。さらに、マウス乳癌細胞株4T1を14日間pH7.4とpH6.4の培養液で培養したものを尾静脈から静注し、14日後に犠牲剖検して肺組織を調べたところ、pH6.4で培養された細胞が形成する転移巣は有意に多いことが判明した。したがって、酸性環境が癌細胞の進展を促進している可能性がより高まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト乳癌組織における免疫組織化学的研究については、乳癌の進展に係わるメカニズムの解明の研究に用いられてきた組織を使用する予定であるが、倫理審査とその公開(Opt-out)の制度の変更により再審査が必要となった。そのうえ、倫理委員会の他の課題の審査が諸般の事情で全体に遅れていたため、本研究の適否の審査も遅れてしまった。現在は倫理委員会の認可がおりており、早急にもとの予定に戻すつもりである。 昨年、癌細胞に加えて間質細胞でのマイクロアレイでの遺伝子発現の変化の検討を行う予定であると記載したが、乳腺由来の間質細胞はその性格を保つためには、化学的に合成された培地の使用が必須であり、その組成からこの培地を用いて、pHを変化させることは困難であることが判明したので、間質細胞におけるpHの効果についての研究は断念する。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト組織で、酸性環境により発現の亢進が生じる分子を探索するため、初年度に発現増加がみられる分子をcDNA マイクロアレイで解析したが、酸性後の時間経過中に一定して大きく発現が変わる分子はみつからなかった。このため、リン酸化が大きく変わるリン酸化コルタクチンを組織で染色し、評価することにより、腫瘍内の酸性条件の影響を受けている部位を解析し、癌進展への関りを明らかにしていく予定である。なお、すでに作成されている組織マイクロアレイの使用の可能性についても検討を行っている。
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