研究課題
当該年度において申請者は、癌抑制遺伝子Drsが活性酸素(ROS)の消去と細胞内レドックス制御に寄与しているかどうかを検討し、その分子メカニズムを明らかにするため、 野生型(WT)およびDrsノックアウト(KO)マウス繊維芽細胞(MEF)を用いた実験を中心に行なった。Drs KOMEFはWTMEFに比べて、過酸化水素(H2O2)による細胞死誘導に高い感受性を示し、またKOMEFにDrs遺伝子を再導入するとH2O2感受性が低下したことから、DrsがROSの消去に寄与することが明らかになった。我々はこれまでDrsが細胞のグルコース代謝制御に関係しており、Drs KOMEFのグルコース消費と解糖系の亢進(Warburg効果)を見出していたため、次にグルコース枯渇状態でH2O2処理を行い、DrsのROS消去メカニズムがグルコース代謝に依存しているものかどうかを検討した。その結果、グルコース枯渇条件下ではWTMEFとKOMEFのH2O2に対する感受性の差は認められなくなり、KOMEFのH2O2に対する感受性はグルコース消費の亢進によって生じている可能性が示唆された。同様にKOMEFはpHストレスに対する感受性も増加した。このことから、Drsは直接的にROS消去分子として働くよりも、むしろその代謝制御がレドックス制御に関わっている可能性が示唆された。我々はDrsKOMEFによる解糖系の亢進に関わる分子としてLDHならびにPDK4(ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4)をすでに報告しているが、WTMEFとKOMEFのメタボローム解析結果の比較からグルタミン代謝に関連したグルタチオン合成にも変化があることを見出した。以上のことからDrsのレドックス制御には、グルコース代謝のみならず、総合的な「代謝シフト」が関係していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
申請者は当初、Drs自身が直接、ペルオキシレドキシン様の活性酸素除去分子として働くことを期待して実験を進めていたが、その過程でKOMEFのH2O2感受性がグルコース濃度にも依存していることを見出したため、グルコースなどの代謝を介する間接的作用である可能性の検討を優先して進める必要が生じた。これは当初からある程度予想していた展開であり、順序は前後したものの、全体としては概ね順調に進展しているといえる。
当年度の方針を継続して、改めてレドックス制御への寄与が示唆されたグルコースをはじめとする各種代謝経路に対するDrsの作用を総合的に解析することを優先して進めるつもりである。特にグルタチオンならびにその関連アミノ酸代謝に対する影響は、Drsによるレドックス制御機構を解明する上で重要な手がかりになると考えている。また、Drs自身が直接ペルオキシレドキシン様活性を示すかどうかについても引き続き検討を行う予定である。
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Molecular Carcinogenesis
巻: 58 ページ: 1726 - 1737
10.1002/mc.23045