研究課題/領域番号 |
19K07664
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
富松 航佑 滋賀医科大学, 医学部, 特任助教 (00614926)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スーパーエンハンサー / 乳がん / SATB1 |
研究実績の概要 |
SATB1はゲノムのオーガナイザーと呼ばれ、核内におけるDNAの構造変化に寄与する。この遺伝子は悪性化した乳がん細胞で顕著に発現し、がんの転移に関連する遺伝子の発現を促している事が報告されている。これらの遺伝子座の幾つかはスーパーエンハンサー(SE)と呼ばれる高密度エンハンサーの集合体を形成し、強力な遺伝子発現誘導が起こっている事が予想されるが、本来形成されない部位でのSE形成機構は明らかになっていない。そこで本研究では悪性化した乳がん細胞に高発現するSATB1と、その異所的なSE形成との関連性を明らかにする。我々はまず、SATB1 の発現によって誘導される転移関連遺伝子のエピゲノム状態を調べるため、公共データベースから良性乳がん細胞株であるMCF-7と悪性乳がん細胞株であるMB-231のH3K27acのChIP-seqデータを用いた解析を行った。その結果、MB-231細胞でSATB1依存的に発現する遺伝子のうち、転移に関連する遺伝子領域にエンハンサーの形成と増加が見られた。また、その一部はエンハンサーを示すピークのクラスターの形成であるSEが見られた。SEの形成に関わるBRD4について、乳がんの悪性度との関係性を免疫染色で観察した結果、悪性であるMB-231細胞でのみBRD4の集合した構造体が観察され、SATB1との共局在が見られた。次にSATB1を良性の乳がん細胞MCF-7に強制発現させて、表現系の変化についてコロニー形成試験と遊走試験で検討した。その結果、強制発現後一定期間は悪性化の表現系を示すが、その後は通常のMCF-7の表現系と変わらない結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでにSATB1は悪性の乳がん細胞株で共通して発現ており、良性の乳がん細胞株では発現が認められない事、また良性の乳がん細胞にSATB1を発現させると転移関連遺伝子の活性化が起こり、細胞は転移能を獲得することが報告されている。本研究によるエピゲノム解析から、悪性の乳がん細胞株であるMB-231細胞に於いてSATB1依存的に発現する遺伝子の周囲にエンハンサーが形成されていることが示されたが、本研究期間で良性の乳がん細胞を用いた再現ができていない。良性の乳がん細胞株であるMCF-7細胞にSATB1を強制発現させた結果、一定期間は悪性の表現系を示すが、その後は通常のMCF-7細胞と同様の挙動に戻り、表現系の維持がin vitroでは困難である。そのため、SATB1についてのエピゲノム解析に移行できていない。
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今後の研究の推進方策 |
現状ではSATB1を良性の乳がん細胞に強制発現させても悪性の表現系の維持が困難である。この現象は良性の前立腺がん細胞株を用いた実験でも同様の現象が確認されており、乳がん細胞株に限定される問題ではない可能性が高い。また、SATB1と悪性化の関連性について報告した研究は、マウスにがん細胞株を移植して結果を提示している。そこでSATB1を強制発現させた細胞の表現系の維持がin vivoで可能であるかを検証する必要がある。また専門家の意見を伺った所、SATB1遺伝子は3’領域の付加が重要であるとの事で、今後その検討を行う。また、ChIP-seqのデータを用いて悪性化したがん特異的なSEによって制御される遺伝子の探索を行なっており、候補となった遺伝子の機能と乳がん悪性化との関連性も並行して調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はSATB1の表現系が安定して検出された所でエピゲノム解析を行う予定であったが、良性乳がん細胞株MCF-7にSATB1を強制発現させた結果表現系が安定しなかったことからその条件検討が必要とされたため出来なかった。そのため次年度使用額が生じた。持ち越した研究費については、本年度エピゲノム解析費用として使用する予定である。
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