初期乳がんを人為的に誘導するモデルとして、DNA損傷修復能の低下とエストラジオール(E2)の連続投与(30日間)という実験系を確立した。この初期乳がん誘導系では、微小浸潤を伴う乳管の異形成が観察された。また、その時に、細胞増殖の活性化、がん原遺伝子MYCの発現上昇が起こっていた。細胞増殖の活性化は、投与開始後7~10日で観察された。一方、MYCの発現上昇は、6時間後から観察された。乳腺全体をCarmine染色で観察した結果、多くのいびつな隆起が観察された。こういった変化は、エストロゲン受容体の阻害剤やMYC阻害剤の投与で低下が見られた。さらに、この初期乳がん誘導系で起こる変化は、DNA修復能の低下のみや、E2の連続投与のみでは観察されなかったことから、初期乳がんの誘導にはそれらの組み合わせが必要であることを明らかにした。 乳がん予防効果が期待されていたイソフラボン類の効果を、本研究の初期乳がん誘導系で検証した。その結果、本研究で用いたイソフラボン類(エクオールとゲニステイン)に、乳管の異形成を完全には抑えないが、異形成の頻度や細胞増殖の頻度を低下させる効果があることを明らかにした。 発酵大麦エキス(FBE)は様々な生理活性物質を含んでいる。初期乳がん誘導系でFBEを経口投与した結果、充実性の異形成は現れるが、微小浸潤は抑えられることを明らかにした。乳管は弾性線維で覆われており、ヒトの初期乳がんや本研究のマウス初期乳がん誘導系ではその弾性線維の破綻や消失が観察される。しかし、FBEの投与では弾性線維が保たれていた。
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