本研究の目的は、(1)大腸がんにおいて高発現しているヒト内在性レトロウイルス領域を長鎖シークエンスによって同定し、(2)同定した領域を大腸がん細胞株あるいは人工大腸がん幹細胞、大腸がんオルガノイドでノックダウンあるいは強制発現させることで、細胞の機能に影響を与える領域を見出し、(3)がんにおけるヒト内在性レトロウイルスの新しい機能を解明することである。昨年度も、これまでに行った大腸がん臨床検体のがん部3検体、非がん部2検体の長鎖、短鎖シークエンスの解析結果の比較から同定した、大腸がんにおいて高発現するヒト内在性レトロウイルス領域の3領域に着目して実験を進めた。 同定した3領域のうちの1領域については、大腸がん細胞株を薬剤排出能の違いで細胞集団を分けた際に、薬剤排出能が低く、上皮細胞の割合が多い集団で高発 現していることを明らかにした。また、別の1領域由来の転写物に含まれるORFの中に、ウイルスタンパク質と類似した構造をもつものがあり、このORF部分をがん細胞で強制発現したところ、細胞膜や細胞質内に点在し、粒子形成に関与している可能性が示された。また、大腸がん細胞株を薬剤排出能の違いでソーティングし、RNAシークエンスと長鎖シークエンスを同時に行うことで、薬剤排出能の高い細胞集団で高発現している新たなヒト内在性レトロウイルスの探索を試みた。 これらの結果は、がんにおけるヒト内在性レトロウイルスの新たな機能を示唆するものである。
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