研究課題
白血病の治療成績は化学療法および造血幹細胞移植により改善されたものの、まだ5年生存率は50%以下であり副作用も多く新規治療法の開発が必要である。本研究は、RUNX転写因子異常に起因する白血病(RUNX白血病)の分子機序の解明に基づき開発中の新規分子標的治療法の確立を目指す。特に下記2点を本研究の目的としており、助成期間の初年度に当たる令和元年においては実施予定であった研究をおおむね計画通り行うことができた。特に2)の薬理機序の解明を大きく進めることができた。一方、1)の薬効評価についてはin vitroでの確認は十分にできたもののin vivoマウス異種移植モデルを用いた効果についてはまだ現在まだ検討中であり本年度中の終了を目指したいと考えている。1)新規分子標的インテグリンα9 (ITGA9)に対するブロッキング抗体の薬効評価:RUNX異常と協調して白血病を惹起するITGA9の過剰発現を、独自に見いだしたブロッキング抗体が阻害し細胞増殖を抑制することをマウス異種移植モデルを含む種々の方法で検証する。2)ITGA9ブロッキング抗体による薬理作用機序の解明:ブロッキング抗体はITGA9と遊離リガンド間の結合を阻害することで薬理効果を示していると考えられるのでこれ検討する。
2: おおむね順調に進展している
本研究で目的としてあげた下記の2点について助成初年度(令和元年)の進捗状況を次に記す。1)新規分子標的インテグリンα9 (ITGA9)に対するブロッキング抗体の薬効評価:本年度は、まずブロッキング抗体使用の対象となるITGA9過剰発現を示す白血病の頻度を検討し、約80%と言う極めて広範な急性骨髄性白血病症例においてITGA9陽性例が存在することを観察した。また、ITGA9が白血病幹細胞マーカーであることを複数の実験により証明した。ブロッキング抗体の阻害効果については主にin vitro実験系を用いて検討を重ねその活性が強力であることを確認した。2)ITGA9ブロッキング抗体による薬理作用機序の解明:ブロッキング抗体はITGA9と遊離リガンド間の結合を阻害することで薬理効果を示していると考えられるのでこれ検討した。予想通り、ITGA9はオステオポンティン(OPN)やテナシンC(TN-C)などの可溶型(遊離型)リガンドと結合すること、そしてITGA9ブロッキング抗体はその結合を阻害すること、またその阻害によって下流のp38MAPKのリン酸化が起こらず細胞増殖が抑制されることなどを観察した。
1)新規分子標的インテグリンα9 (ITGA9)に対するブロッキング抗体の薬効評価: 予定していたin vivo効果の評価法、a) RUNX1ETO遺伝子改変マウスモデル、b) t(8;21)をもつ白血病細胞株Kasumi-1の免疫不全NSGマウスへの皮下接種系、c) 異種移植患者腫瘍組織移植patient derived xenograft (PDX) モデル、の全ての方法を用いて本年度は抗体の薬効評価を精力的に行う。2)ITGA9ブロッキング抗体による薬理作用機序の解明:ブロッキング抗体はITGA9と遊離リガンド間の結合を阻害することで薬理効果を持つと考えられ、その作業仮説がおおむね正しいことを昨年度は確認できた。本年度はさらにITGA9の全長、欠損変異体などの組み合わせ、などを網羅的におこなうことで、結合部位の同定および下流シグナルへの影響を行ってゆく。
実験目的1)新規分子標的インテグリンα9 (ITGA9)に対するブロッキング抗体の薬効評価: この達成のために予定していたin vivo効果の評価、a) RUNX1ETO遺伝子改変マウスモデル、b) t(8;21)をもつ白血病細胞株Kasumi-1の免疫不全NSGマウスへの皮下接種系、c) 異種移植患者腫瘍組織移植patient derived xenograft (PDX) モデルを用いた検討を、実験系の準備などに時間がかかり十分におこなうことができなかった。このため本年度計上額に未使用分が生じこれを次年度に使用することとした。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 11件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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