研究課題/領域番号 |
19K07673
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
秋元 美穂 帝京大学, 医学部, 助教 (60437556)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低酸素 / 大腸がん / IL-33 / sST2 / 増殖抑制 |
研究実績の概要 |
腫瘍低酸素領域におけるsST2発現低下を示すと共に、それが腫瘍増殖に及ぼす影響について明らかにした。マウス大腸がんNM11細胞を移植したマウスを用いて腫瘍組織中のsST2発現レベルを免疫組織染色で調べたところ、ピモニダゾール陽性の低酸素領域では腫瘍細胞におけるsST2発現の低下が認められた。また、同様の傾向はヒト大腸がん患者由来の大腸の正常組織、腫瘍組織、肝および肺転移組織を含むティッシューマイクロアレイを用いた免疫蛍光染色でも観察された。我々の先行研究では、大腸がん細胞におけるsST2の発現低下は腫瘍促進的に働くことが示されている。そこで本研究では、腫瘍の低酸素領域の大腸がん細胞におけるsST2発現低下を抑制した場合に腫瘍の増殖が抑制されるか否かについて検討した。そのためにまず、低酸素に応答してsST2を発現するベクター(5HRE-sST2)を構築し、NM11細胞にトランスフェクションして、低酸素誘導性のsST2の発現低下が抑制された細胞を取得した。この細胞を同系のBALB/cマウスに皮下移植したところ、腫瘍中の低酸素領域におけるsST2発現低下が回復することが確認された。NM11腫瘍での低酸素領域におけるsST2の発現回復に伴い、腫瘍増殖および腫瘍血管形成が抑制された。また、この腫瘍中のサイトカインの遺伝子発現をPCRアレイで分析した結果、IL-6を始めとする炎症性サイトカインの発現が顕著に抑制されており、炎症性の微小環境の改善が認められた。したがって本研究の結果は、大腸がん腫瘍組織中のがん細胞における低酸素誘導性のsST2発現低下の回復は、炎症性微小環境の改善と腫瘍増殖抑制に有効であることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通りマウスモデルを用いて、大腸がん腫瘍組織中のがん細胞における低酸素誘導性のsST2発現低下の回復は、炎症性微小環境の改善と腫瘍増殖抑制に有効であることを示すことができた。しかしながら、現移植モデルでは転移の評価はできなかったため、高転移性のマウス大腸がん細胞を用いた検討を引き続き行うこととしたため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでマウス大腸がんNM11細胞を用いて、腫瘍組織中のがん細胞における低酸素誘導性のsST2発現低下の回復が、炎症性微小環境の改善と腫瘍増殖抑制に有効であることを示した。しかしながら、NM11細胞は低転移性のため現移植モデルでは他臓器への転移は検出されず、低酸素誘導性のsT2発現が転移に及ぼす影響については検討することができなかった。そこで、マウス大腸がんLuM1細胞を用いた転移モデルにより検討することとした。LuM1細胞はNM11細胞より派生した高転移性の細胞であり、LuM1細胞担がんマウスの肺表面に形成される転移結節の観察により、転移能を容易に評価することができる。低酸素応答性にsST2を発現するプラスミドベクター(5HRE-sST2)をLuM1細胞にトランスフェクションし、低酸素誘導性のsST2の発現低下が抑制された細胞を取得する。この細胞を同系のBALB/cマウスに皮下移植し、腫瘍中の低酸素領域におけるsST2発現低下が回復されることを確認した上で、それが肺転移に及ぼす影響を解析する。また、これまでの我々の知見から、大腸がん細胞におけるsST2の発現はがん微小環境内でのIL-33/ST2Lシグナリングの亢進に繋がることが分かっているので、それに付随して見られるIL-33/ST2L誘導性のTh2分化・腫瘍随伴性マクロファージ(TAM)の浸潤・腫瘍血管形成について中心的に解析する。この実験系により、腫瘍組織内の低酸素領域を標的としたsST2発現の回復が大腸がんの増殖だけでなく、転移にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析事項が追加され、そのための試薬や実験動物等の購入費に使用する予定である。
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