研究課題/領域番号 |
19K07674
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
小林 美穂 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (50630539)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | がん転移 / 血管 / エクソソーム |
研究実績の概要 |
本研究課題では、臓器向性転移において血管が腫瘍細胞から受ける影響を、主にエクソソームとの関係解析を通して明らかにすることを目的として研究を進めた。申請者の所属変更により、頭頸部扁平上皮がん細胞及び頭頸部扁平上皮がん臨床検体等を得ることが容易になったため、実験対象を頭頸部扁平上皮がんとして臓器向性とエクソソームとの関係について解析した。頭頸部がんにおいては、所属リンパ節への転移が多く研究されているが、遠隔転移として好発する血行性の肺転移についての報告は少ない。また、扁平上皮がん細胞ではTGF-βによるEMTを介した悪性転換が転移と関連することが知られている。そのため、TGF-β刺激によりEMTを起こした扁平上皮がん細胞と、EMTを起こす前の扁平上皮がん細胞とで、放出するエクソソーム量についてNanoSightによる画像解析及びウェスタンブロットによる生化学的解析で検討した結果、悪性化が高いほどエクソソーム量が増加していた。また、悪性度の高いがん細胞由来のエクソソームは、悪性度の低いがん細胞に対するEMT誘導能と細胞遊走誘導能が共に高いことが明らかとなった。この結果から、悪性度の高い扁平上皮がん細胞から放出されるエクソソームは、転移を促進する能力あると考えられた。これらエクソソームを単層培養した血管内皮細胞に投与したところ、悪性度の高い扁平上皮がん細胞由来エクソソームは血管内皮細胞の細胞間接着を崩壊させて形態変化を誘導する能力が高いことを明らかにした。従って、悪性度の高い扁平上皮がん細胞は、エクソソームを介して血管内皮細胞の形態変化を誘導することでintravasationやextravasationをするのではないかと考えられた。この仮説を詳細に解析するためにも、扁平上皮がん細胞の高転移性亜株と親株を比較した解析を検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者の所属変更により、当初予定していた大腸がん臨床検体等は入手が困難になり、代わりに頭頸部扁平上皮がん細胞及び頭頸部扁平上皮がん臨床検体等を得ることが容易になったため、解析に用いる対象がんの変更が必要となった。しかしながら、所属変更先の研究室では既に頭頸部扁平上皮がん細胞を用いたエクソソームの単離や解析方法を確立しているため、その点では条件検討等の必要が無くなり、予定よりも早期に着手して進めることが出来た。また、当初予定していた高転移性大腸がん細胞亜株と親株との比較について頭頸部扁平上皮がん細胞で実施する必要があったが、変更後の所属研究室では既にin vitroにおける悪性化誘導としてTGF-βによるEMT誘導の実験系を確立していたため、まずはこの系において解析を進めた。そしてTGF-βによりEMTが誘導されて悪性化したがん細胞ではエクソソーム量が変化していることや、そのエクソソームはがん細胞自体の悪性化や血管内皮細胞の形態変化を誘導する能力も高いという成果を得ることが出来た。これは、in vitroでのがん悪性化獲得であっても、そのがん細胞から放出されるエクソソームを解析することで血行性転移に関わるかどうかを予想出来ると考えられ、当初予想もしなかった良い成果を得ることが出来た。これらのことから、本研究課題は現在までに概ね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
申請者がこれまでに使用した頭頸部扁平上皮がん細胞では、悪性度の違いにより放出されるエクソソームが血管内皮細胞に及ぼす影響が異なることを明らかにした。従って、悪性度の高くなった扁平上皮がん細胞は、エクソソームによる血管内皮細胞の形態変化を誘導することで血行性転移しているのではないかと予想された。しかしながら、これらがん細胞のマウスへの異所性皮下移植及び同所性移植では、共に近傍のリンパ節転移は見られるものの、遠隔転移はほとんど見られないことから、血行性転移におけるエクソソームの役割を明らかにするためには、このがん細胞による解析では不十分だと考えられた。従って、遠隔転移を誘発する高転移性頭頸部がん細胞を用いて本課題を解析することが必要である。これについては申請者が所属する東京医科歯科大学が保有する、特に頭頸部扁平上皮がんで好発する肺転移を誘発する細胞を使用する予定である。そして、EMTが誘導されて悪性化したがん細胞由来のエクソソームは、がん細胞自体の悪性化や血管内皮細胞の形態変化を誘導する能力が高いという成果を得たため、今後はその分子機構について解析を進める予定である。がん転移に関与するがん微小環境中での血管内皮細胞の形態変化としてEndMTが知られているが、所属研究室では既にEndMT解析の実験系を確立しているため、エクソソームとEndMT誘導との関係についても解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大による非常事態宣言の影響を受け、実験を停止せざるを得なくなったため、次年度使用分が生じた。非常事態宣言の解除により実験再開が承認され次第、当初予定していた解析のために使用する計画である。
|