本研究は、がん細胞が血管内皮細胞を操るツールとして、がん細胞を含む多くの細胞が分泌する細胞外小胞(EVs)と呼ばれる直径100 nm程度の粒子に注目した。EVsにはRNAなどの核酸や様々なタンパク質が内包されており、近くの細胞や遠くの細胞とEVsをやり取りすることで、細胞どうしはコミュニケーションを取る。本研究ではまず、TGF-βで刺激してEMTが誘導された口腔がん細胞では、無刺激の口腔がん細胞に比べて3倍ほどEVsの分泌量が増加することを発見した。次に、がん細胞から分泌されるEVsが血管内皮細胞に及ぼす影響を探るために、無刺激の口腔がん細胞由来EVs(Control-EVs)とTGF-β刺激した口腔がん細胞由来EVs(TGF-β-EVs)を用意し、血管内皮細胞で形成した血管内皮シートにそれぞれのEVsを同じ量だけ作用させたところ、どちらのEVs処理においても血管内皮細胞では本来発現していない間葉系細胞マーカーであるSM22αの発現が誘導されており、内皮間葉移行(EndoMT)が引き起こされることが明らかとなった。さらに、EVsは血管内皮細胞どうしの接着を弱め、血管内皮シートに隙間を形成させていた。このような細胞間の隙間は、血管のバリア機能を低下させて不安定化を導くことが知られている。そのため、実際に血管内皮シートの物質透過性を測定した結果、EVsは血管内皮シートの物質透過性を亢進させており、バリア機能の低下を招くことが明らかとなった。興味深いことに、このようなEndoMTや血管不安定化によるバリア機能の低下は、TGF-β-EVsの方が強く誘導することが新たに見出された。
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