研究実績の概要 |
本研究では、がん細胞株でみられたセパレース活性制御異常の分子基盤を解明するために、セパレースの厳格な活性制御を保証する機構を解明し、その知見をがん細胞株における異常の理解へと展開する。3つの大枠を設けて研究を推進している。(1)セパレース活性化直前のサイクリンB1結合の活性制御機構における意義の解明。(2)がん細胞株におけるセパレース・サイクリンB1複合体の形成状況の解析。 (3)サイクリンB1結合の異常以外によってセパレース活性制御異常が生じている可能性の探求。当該年度は(2)を完了した。以下、当該年度の実績の概要を記す。
がん細胞株におけるセパレース活性制御異常は、がん細胞の分裂期中期が長いことが原因であることが明らかになった(第79回日本癌学会学術総会、第43回日本分子生物学会年会、Shindo et al., Cell Reports, 2021)。さらに、人為的な分裂期中期の延長によってセパレースとサイクリンB1の結合量を低下することから、がん細胞の長い分裂期中期においてもセパレースとサイクリンB1の結合量が低下していると考えられた。そこで免疫蛍光染色法を応用したProximity Ligation Assay (PLA)法を各種がん細胞株で行ったところ、多くのがん細胞でセパレースとサイクリンB1の結合量が低下していた。さらに、この解析で結合量の低下が著しかった細胞株にサイクリンB1と結合できないセパレースの変異体を導入し、内在性のセパレースをRNAiで除去して完全にセパレース・サイクリンB1結合を消失させたところ、重篤な染色体分配異常が生じて細胞分裂に失敗し、増殖が停止した。分裂期中期の短い正常細胞は比較的この変異体の影響を受けないことから、分裂期中期の長いがん細胞を選択的に増殖停止させることができると考えられる。
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