研究実績の概要 |
前年度までの研究により、がん細胞では分裂期中期の延長によりセパレース活性制御異常ならびに染色体分配異常が引き起こされていることが明らかになった(Shindo et al., Cell Reports 2021)。分裂期中期の延長の影響は多岐にわたり、これまでの検討で明らかになったサイクリンB1結合の異常以外の影響によってセパレース活性制御に問題が生じている可能性は十分に考えられたので、セパレースの自己切断の有無の影響を検討した。具体的には、野生型と非切断型変異体を用いてセパレース・サイクリンB1複合体を調製して活性を調べるために、精製用のtagをつけた野生型あるいは非切断型のセパレースを発現する細胞株を樹立し、単極後期法によりセパレース・サイクリンB1複合体形成がピークになる時期の細胞を回収して複合体を精製し、in vitroでセパレース活性測定(Hauf et al., Science, 2001)を行った。セパレース野生型はサイクリンB1結合とともに切断されて抑制されるが、非切断型変異体の活性は抑制されなかった。Yuらが報告したセパレース複合体のクライオ電子顕微鏡による構造解析(Yu et al., Nature, 2021)によると、サイクリンB1結合によるセパレース活性制御はセパレース自身のintrinsically disordered region (IDR)領域(AIL3)が偽基質としてセパレースの活性中心をブロックし、本来の基質が近づけないようにすることによって行われている。AIL3は自己切断部位の近傍にあるので、自己切断によってセパレースのAIL3の領域がより安定してセパレースの活性中心をブロックできるようになると考えられた。
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