研究課題/領域番号 |
19K07679
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
梶野 泰祐 愛知県がんセンター(研究所), 分子診断TR分野, 主任研究員 (50723673)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | lncRNA / TP53 / miR-20a |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、肺がんにおいて遺伝子増幅などにより過剰発現するmiR-17-92クラスターを同定し、その標的遺伝子の探索や分子機構の解明を通じ、miR-17-92クラスターの重要性を明らかにしてきた。近年我々はmiR-17-92クラスターの中でも高発現且つ中心的な役割を担っているmiR-20aに着目し、miR-20aによって制御されるlncRNAの網羅的な探索を行った。その結果、機能未知の新規lncRNAを同定し、その作用機序よりTP53-inhibiting lncRNA、TILRと命名した。このTILRはp53の発現を抑制することにより、肺がん細胞の生存を制御するlncRNAであることを明らかにしてきた。本年度はTILRによるp53の制御機構を明らかにするためにTILR結合タンパク質の網羅的な探索と同定を行い、TILR-binding protein 1 (TBP1)を同定した。そこでこのTBP1がTILRと同様にp53の発現を制御するか、siRNAを用いて検討した。その結果、TBP1の発現抑制によってp53の発現が上昇し、さらに肺がん細胞の増殖が著しく抑制されることを見出した。以上の結果から、TILRはTBP1と結合することによりp53の発現を抑制し、がん細胞の生存を制御するlncRNAと考えられる。 また、p53は細胞死の制御を担う重要な癌抑制転写因子であるため、その発現は転写や翻訳、さらにはタンパク質の安定性といった様々な点において適切に制御されている。そこで我々は、TILRがp53のタンパク質の安定性をも制御するか検討したところ、TILRのノックダウンによってp53タンパク質が著しく安定化することを明らかにした。つまり、TILRはp53の発現量を翻訳とタンパク質の安定化の制御によりp53の発現と活性を適切に制御していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺がんにおいて重要な働きをするTILRの機能解析は、TILR結合タンパク質の網羅的な探索並びに分子生物学的手法を通じて順調に進行している。TILRの結合タンパク質の網羅的な探索より、TILR-binding protein 1 (TBP1)を同定し、TBP1がTILRと同様にp53の制御に必須であることを明らかにした。さらにTILRとTBP1の結合様式の分子機序を明らかにするためにin vitroアッセイ系の構築および最適化を開始した。また、TILRによるp53の発現制御とp53の活性の関連性を明らかにするために、p21プロモーターを用いたluciferaseアッセイとChIPアッセイを組み合わせて、TILRがp53の活性を制御することを明らかにした。さらに、TILRはp53の翻訳のみならずタンパク質の安定性も制御することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに我々が同定した機能未知の新規lncRNA、TILRの機能解明に向けて、TILR結合タンパク質の網羅的な探索を行い、TILRがTBP1と結合することを明らかにした。今後はその結合様式の詳細な分子機序を明らかにするとともに、TILRとTBP1によるp53制御機構の詳細を解明する。特にTILRによるp53タンパク質の安定性の制御機構の解明のため、網羅的な遺伝子発現プロファイルやタンパク質発現プロファイル等を行い、TILRとTBP1によるp53の制御の全容の解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は論文化に向けてp53タンパク質の発現制御機構の全容の解明を推し進めており、網羅的な遺伝子発現プロファイルとその分子機序の解明を進めている。次年度は論文投稿費およびそれに伴う研究経費に用いる。
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