研究課題
本課題では、癌関連線維維芽細胞(Cancer Associated Fibroblast [CAF])が間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell [MSC])より発生・分化し、膵管癌の間質を構成するようになるプロセスとメカニズムを理解するための研究を実施している。研究では、代表者が開発してきた膵管癌を発生する遺伝子改変マウスをin vivoの研究システムとして、膵管癌のtube-forming growthを再現できる三次元培養をin vitroの研究システムとして用いている。膵管癌を発症するマウスモデルは、膵臓特異的に発現させたKrasG12Dとともに、Doxycycline (Dox)投与依存的にSV40 tsA58 T抗原を発現させることで膵管癌を発生するマウスで、Dox 投与開始後2週間の間に、マウスは膵管癌を発生して急速に進展し、死亡する。in vivoの研究システムでは、Dox 投与開始後に前がん病変(PanIN)から進展して膵管癌が発生することを見出し、発生した膵管癌の間質は、Dox投与開始から7日目までに完成することを明らかにした。また、膵管癌を発生するマウスへのDox 投与に先立ち、GFP標識した骨髄由来MSC細胞株を腹腔内へ投与しておくと、GFP標識された細胞が癌間質を構成する線維芽細胞へと分化することを見出した。in vitroの研究システムでは、GFP標識した骨髄由来MSC細胞株と、上記の発がんマウスモデルに発生した癌組織より樹立した膵管癌細胞株とを三次元で共培養する条件検討をすすめた。当該研究では、MSCが膵管癌の形成するspheroidの周囲を覆うように増殖して線維芽細胞へと分化してくる培養条件を見出すことができ、in vitroでのCAFの誘導に成功した。
2: おおむね順調に進展している
本課題では、癌関連線維維芽細胞(Cancer Associated Fibroblast [CAF])が間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell [MSC])より発生・分化し、膵管癌の間質を構成するようになるプロセスとメカニズムを理解するための研究を実施している。研究では、代表者が開発してきた膵管癌を発生する遺伝子改変マウスをin vivoの研究システムとして用い、膵管癌のtube-forming growthを再現できる三次元培養をin vitroの研究システムとして用いている。予定した計画は、I) 膵管癌CAFに特徴的な遺伝子発現・糖鎖発現、活性化しているシグナル伝達系を明らかにする、II) 得られた結果の検証、III) MSCから膵管癌CAF分化をin vitroで再現する、としており今年度は項目IとIII)を実施した。その進捗は当初に計画した通りに推移した。in vivo研究システムを用いた研究では、骨髄由来MSC細胞が、Dox 投与開始後に発生した膵管癌の間質で増殖・分化して線維芽細胞となり、7日目までに完成する癌間質の形成に寄与することを見出した。in vitroの研究システムでは、骨髄由来MSC細胞は膵管癌の形成するspheroid周囲を覆うように増殖して線維芽細胞へと分化し、in vitro でCAFを発生させられる条件を見出すことができた。これらのことから、次年度以降に予定していたGFPを指標にしたCAFの回収・解析は可能な状況となっている。また、骨髄由来MSC細胞が増殖・分化し、膵管癌の間質を構成するようになるプロセスとメカニズムを理解するための研究を進められる状況にあることは明らかであることから、おおむね順調に進展していると判断した。
研究を遂行する上で障害となった技術課題等は発生していないので、今後の研究計画に変更予定はない。「研究項目I) 膵管癌CAFに特徴的な遺伝子発現・糖鎖発現、活性化しているシグナル伝達系を明らかにする」においては、膵管癌のCAFに特徴的な遺伝子発現・糖鎖発現、活性化しているシグナル伝達系の解析を進めてゆく。「研究項目III) MSCから膵管癌CAF分化をin vitroで再現する」においては、TGF-bシグナル活性化の異なる2種類の膵管癌細胞株(Sphere型とTube型)との共培養で、MSCから出現してくるCAFは、増殖性や形態学的に差異が存在することも見出しており、マウスがん組織に出現してくるCAFと、in vitroで生成してくる2種類のCAFに発現する遺伝子プロファイルを、1細胞RNAseqで解析する。さらには、マウス膵管癌のCAFを特徴づけるマーカー分子、活性化しているシグナル伝達系、そして糖鎖構造の同定を進める。MSCが、膵管癌間質を構成するCAFとなることを促す分化メカニズムを解明するため、次年度以降にはヒト膵管癌組織の解析を開始し、CAFに発現する分子を標的とした膵管癌の新たな治療法開発の可能性を検討する。
本年度の研究においては、MSCがDox 投与開始後に発生した膵管癌の間質で増殖・分化して線維芽細胞となり、7日目までに完成する癌間質の形成に寄与することを見出し、その確認をするための病理組織学的解析に時間を費やすことになった。交配によって発がんモデルマウスを生産しているが、細胞ソートの条件を検討するのに十分な匹数のマウスを確保できなかった。その代わりに、「研究項目III)MSCから膵管癌CAF分化をin vitroで再現する」を前倒しで開始したところ、早い段階で当初の目的を達成することができた。このため、次年度の使用額が生じている状況である。次年度には十分な匹数のマウスを確保できているので、予定していた研究計画を実施できる状況であることから、研究項目I)と研究項目III)に予定していた解析で使用する。
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