研究課題/領域番号 |
19K07684
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江幡 正悟 東京大学, 環境安全研究センター, 准教授 (90506726)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 腎癌 / 転移 / 癌微小環境 / 炎症 / 好中球 / エピゲノム / スーパーエンハンサー / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
腎がんは、画像診断技術の向上から早期診断が可能になり、罹患数が年々増加している。早期腎がん症例は、鏡視下手術もしくは開放手術による根治的腎摘除術が奏功し、良好な治療成績が得られている。一方で、転移を有する進行腎がんの症例に対しては、分子標的薬も使用されるようになってきた。ただし、腎がん細胞の増殖やアポトーシス回避に関係する分子メカニズムが十分に解明されておらず、ほかの臓器のがんに比べて、腎がんの分子標的治療の成績は限定的であるのが現状である。 そこで本研究では、腎がん高悪性株を樹立し、その特性を理解することで、あらたな標的分子やバイオマーカーの同定を進めている。具体的には、ヒト淡明細胞型腎細胞癌細胞(親株)をマウス腎に同所性移植し、形成された腫瘍から細胞を単離し再度移植、というサイクルを繰り返して、原発腫瘍形成能と肺転移能が亢進した腎がん高悪性株を作成した。親株と高悪性株は同一の遺伝的背景を有しているため、それら遺伝子発現の比較から、腎がんの進展に重要な遺伝子を抽出することが可能であると考え、RNA-sequencingにより遺伝子発現プロファイルを行った。 その結果、腎がん高悪性株の肺転移には、特定のケモカイン群の発現亢進による炎症反応が重要であることがわかり、さらにその発現にはsuper enhancer形成が関与していることが明らかになった。Super enhancerの活性を減弱させるBET阻害剤(JQ1)により、高悪性株ではケモカイン群発現が一様に低下した。さらに非臨床試験では、JQ1により腎がん高悪性株の肺転移が抑制されることを示され、この薬剤の有用性を報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題で得られた結果から、腎がん細胞はがんの進展に際してケモカインを産生することで炎症反応を惹起し、活性化した好中球が肺転移の成立に寄与していることがわかり、腎がんの進展における腫瘍内在性炎症の関与を示した。さらに炎症の反転に重要なケモカインの産生にはスーパーエンハンサーを介したエピジェネティックな機構が関与しており、BET阻害剤によりその活性を減弱させることで、腎がんの肺転移が抑制されることを見出すまでに至った。 腎がん症例では炎症反応が随伴する場合があるが、今回の仕事ではこの腫瘍内在性炎症の意義を明らかにした。さらにその進展に重要な分子やその発現制御機構をしらべ、腎がんに対する新たな治療戦略を提案することができた。炎症を含めたがん微小環境の変化は、免疫チエックポイント阻害剤の作用などとも密接に関連があると想定され、これらの薬剤の感受性を予想する上でも意義があると考えられる。 予想を上回る速さで研究が進行し、今年度に研究成果の一部を論文報告した。論文はNature Cell Biology誌に採択されたが、国内外の雑誌において紹介記事が作成させるなど、多くの反響があり、今後も継続的に研究を行っていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
腎がん高悪性株のモデルは有用な解析対象であると考え、さらなる遺伝子発現変動の探索を継続しておこなっている。その結果、スーパーエンハンサー形成以外にも、腎がん高悪性株に特異的に亢進しているエピゲノムがあることがわかった。興味深いことに、このエピゲノムによって生じる遺伝子発現変動は、がん細胞のアポトーシス耐性などに関与していることが示唆されている。そこで、in vitroならびにin vivoの解析を行い、この遺伝子発現変動が腫瘍形成能、さらに薬剤抵抗性に関してどのような意義を有するか検討する。また、公共データベースなども参照し、臨床的な意義に関しても言及する。
|