研究課題/領域番号 |
19K07684
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
江幡 正悟 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (90506726)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腎がん / 転移 / 炎症 / アポトーシス / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
腎がんは、画像診断技術の向上から早期診断が可能になり、罹患数が年々増加している。ただし、がん細胞のアポトーシス回避や転移能の亢進に寄与する分子メカニズムが十分に解明されておらず、ほかの臓器のがんに比べて、腎がんの分子標的治療の成績は限定的であるのが現状である。 そこで本研究では、腎がん高悪性株を樹立し、その特性を理解することで、あらたな標的分子やバイオマーカーの同定を進めている。具体的には、ヒト淡明細胞型腎細胞癌細胞(親株)をマウス腎に同所性移植し、形成された腫瘍から細胞を単離し再度移植、というサイクルを繰り返して、原発腫瘍形成能と肺転移能が亢進した腎がん高悪性株を作成した。RNA-sequencingにより遺伝子発現プロファイルを行った。その結果、腎がん高悪性株の肺転移には、特定のケモカイン群の発現亢進による炎症反応が重要であることがわかり、さらにその発現にはsuper enhancer形成が関与していることが明らかになった。Super enhancerの活性を減弱させるBET阻害剤により、ケモカイン群発現が一様に低下し、腎がん高悪性株の肺転移が抑制されることを示され、この薬剤の有用性を報告した。 また、腎がん高悪性株における遺伝子発現変動の探索を継続した。その結果、腎がん高悪性株ではメチル基転移酵素DNMT3Bの発現が亢進しており、それによりミトコンドリア内膜のcomplex IIIを形成するUQCRHの発現が低下していることが分かった。さらにUQCRHはアポトーシス誘導刺激に応じて、ミトコンドリアから細胞質でcyt cを流出させ、アポトーシスを完結させるために必要な分子であり、その発現が低下することでがん細胞がアポトーシス耐性を獲得していることを報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果から、腎がん細胞は腎同所の微小環境との相互作用が炎症性サイトカインのゲノムにエピジェネティックな変化が生じ、その結果腫瘍内在性炎症が誘導されることがわかった。さらにその炎症では腫瘍組織に多くの好中球が動員され、それによって肺転移が促進することが明らかになった。ところが、BET阻害剤を用いてこのエピゲノム、すなわちスーパーエンハンサーの活性を抑制することで、肺への転移を抑制することを明らかにし、論文報告を行った。この論文は基礎医学のみならず、臨床医学の論文でも引用されており、臨床的にも有用な報告となっている。 さらに、高悪性株のcharacterizeを通じて、新規がん抑制遺伝子UQCRHを同定した。この分子は抗がん剤によるアポトーシス誘導に関わっている可能性がある。実際にメチル化阻害剤5-aza-dCによりUQCRHの発現を回復させたうえで、mTOR阻害剤を添加すると、腎がん細胞のアポトーシス誘導性が亢進した。UQCRHの発現低下を介したがん細胞の抗がん剤耐性獲得の新たなメカニズムを解明することができたため、論文報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに抽出されたがん抑制遺伝子UQCRHの解析を継続的に行う。特に病理組織学的な解析を行い、腎がんと同様に、DNAメチル化によるUQCRHの発現低下が寄与するがんにはどのようなものが含まれているか臓器横断的に検証し、発展的な成果としてまとめることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、当初予定していた一部の実験が滞り、試薬や消耗品の購入を見合わせざるを得なかった。そのため差額が生じ、次年度使用額として計上した。
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