研究課題
がんの発生・悪性進展過程において、がんに関係する遺伝子自身の異常(ドライバー変異)のみならず、その遺伝子を取り巻く環境の変化(エピジェネティック変異)が高頻度に報告されている。しかし両変異の相互作用とそれらが及ぼす影響は、意外なほど理解されていない。本研究では、ドライバー変異による乳がん悪性形質獲得と協調的に作用するエピジェネティック制御因子を同定することを目的に、120種類のエピジェネティック制御因子から構成された「Small-scale epigenetic sgRNA レンチウイルスlibrary」を作製した。本スクリーニングでは、(ゲノム編集技術によって作製された)P53欠損 MCF7細胞へ上述のsgRNAライブラリー由来のレンチウイルスを感染させ、標的遺伝子の変異を人為的に誘導し、これらの細胞を用いて(悪性形質獲得のポジティヴ選別法として)スフィア形成実験を行った。そして、発生した個々のスフィアを回収し、ゲノム内に挿入された sgRNAをシークエンス解析によって決定した。その結果、ヒストン脱メチル化酵素KDM3Bを、スフィア形成能に影響を与える因子候補として同定した。最近、本スクリーニングの更なる遂行によって、ヒストンアセチル化酵素XやCOMPASS複合体サブユニットYもまた新たな乳がん悪性化因子候補として同定した。臨床データ解析の結果、これら候補遺伝子の乳がん患者組織における発現パターンおよび予後との有意な相関性が示された。また細胞学的解析の結果、候補遺伝子群は、今回用いた乳がん細胞株(MCF7,MDA-MB-231など)のもつ悪性形質、つまり幹細胞性や浸潤活性に関与する可能性が強く示唆されている。今後、乳がん悪性化における作用機構を分子レベルで明らかにし、候補遺伝子が司るエピジェネティック制御の可逆性に焦点を当てた、新たな耐性克服戦略の確立を目指す。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Biological Chemistry
巻: 296 ページ: 100213~100213
10.1074/jbc.RA120.015502