日本人癌死亡者の半数以上が消化器癌であり、その中でも膵臓がんは最難治のがん種として知られる。膵がん全症例の5年生存率は7%、診断時からの平均生存期間は14ヶ月と大変深刻な状況にある。従って治療成績向上のために、膵がん悪性化のメカニズムに基づいた新規抗がん剤の開発は喫緊焦眉の課題である。我々はこれまでの研究でRNAのメチル化酵素の一つであるMETTL3の発現が膵がんの悪性化に繋がることを明らかにしている。すなわち膵がんの自然発がんマウスにMETTL3を過剰発現すると、コントロールマウスに比べてがんの増殖が非常に早く、さらに肝臓などへの遠隔転移も引き起こすことを明らかにした。そこで本研究ではRNAのメチル化酵素METTL3の阻害剤開発及びコンパニオン診断薬として忍容性の高い症例を診断するためのマイクロRNAマーカーの開発を目的とした。 METTL3のタンパク質データベース(PDB)を参照して、構造解析と化合物予測を500万化合物ライブラリーに対して実施した。その結果、タンパク質構造から結合する低分子阻害剤の予測に成功した。また、METTL3-m6A RNA間の相互作用を検出するHTSアッセイ系を構築した。構築したHTSアッセイ系とスクリーニング設備を用い、東大・阪大の化合物ライブラリーを用いて阻害剤を探索した。続いて、一次スクリーニングで同定したHit化合物の検証を行った。さらにBiacoreを用いた相互作用阻害カウンターアッセイ系によるHit化合物のバリデーションを行った。HTSを進めた結果、リード化合物の取得を目指した。共通構造の解析、溶解性考慮、ADME予測し、AlphaScreenとフェノタイプスクリーニングと連携して候補選定を進めた。マウスを用いた抗腫瘍活性の評価により化合物の選定を進め、リード化合物を数種類取得した。
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