研究実績の概要 |
本研究の目的は、(P)RR過剰発現ヒト膵管上皮細胞をもちいて膵管癌のゲノムの多様性をもたらす進化メカニズムを検証することである。2019年度の研究計画は,(P)RR過剰発現ヒト膵管上皮細胞を用いてヒト全ゲノム解析を実施し、染色体構造変異および体細胞突然変異を把握することである。 2019年度の研究実績は、以下の2点である。 1.ヒト全ゲノム解析に用いるため、由来の異なる3種類のヒト膵管上皮細胞(HPDE-1/E6E7, HPDE-6/E6E7, HPNE)を用いて(P)RR安定発現細胞を樹立するとともに、(P)RR発現量によるゲノムの多様性の相違を検証するために、(P)RR一過性発現細胞を樹立した。 2.(P)RR発現量によるゲノムの多様性の相違を調べるために、(P)RRを安定発現および一過性発現させたヒト膵管上皮細胞HPDE-1/E6E7細胞を用いて、ヒト全ゲノム解析を実施した。(P)RR一過性発現細胞と比較して、(P)RR安定発現細胞において体細胞突然変異数および染色体構造変異数の顕著な増大を認めた。このことは、ヒト膵管上皮細胞集団における(P)RR発現レベルがゲノム不安定性の増減に影響を与えることを意味する。(P)RR安定発現細胞では、非同義置換を生じた遺伝子が63個同定され、また染色体構造変異では、トータルで254個(転座:122, 逆位:63, 縦列重複:39, 欠失:30個)同定された。(P)RR安定発現によって、がんのドライバー遺伝子を格納したデータベースCOSMICに記載されている4つの体細胞突然変異(FGFR3, MLL3, BRIP1, MSH6)および5つの染色体構造変異(PDE4DIP, THRAP3, FANCD2, MDS1,CBL)を認めた。つまり、(P)RR安定発現はドライバー遺伝子に変異を生じる潜在性を持つことが明らかになった。
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