研究課題/領域番号 |
19K07691
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
小林 大樹 新潟大学, 医歯学系, 助教 (20448517)
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研究分担者 |
荒木 令江 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (80253722)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | NF1 / TCTP / EF1A2 / 悪性腫瘍 / クロスリンク質量分析 |
研究実績の概要 |
神経線維腫症Ⅰ型(NF1)は3000人に1人の割合で発症する遺伝性疾患で、悪性神経鞘腫瘍(MPNST)やグリオーマを発症することが知られている。本研究室の以前の研究結果から、NF1腫瘍細胞内ではTranslationally Controlled Tumor Protein (TCTP)の発現が上昇しており、悪性度の高いNF1腫瘍ではTCTPの発現量が高くなる傾向にあることを明らかにした1) 2)。加えて、TCTPはEF1A2を中心としたNF1腫瘍特異的な翻訳伸長因子群との相互作用によって、NF1腫瘍の悪性化に寄与することを明らかにした。本研究では、TCTPと相互作用するタンパク質の同定と、それらの相互作用部位の特定をクロスリンク質量分析法によって行い、TCTPの構造と機能を解明することでTCTPのNF1腫瘍治療ターゲットとしての有用性を検討した。その結果、TCTPは、EF1A2のホモ二量体構造を形成する部位と拮抗的に結合し、EF1A2の二量体化を阻害することで、EF1A2の翻訳機能を活性化することが考えられた。また、EF1A2のGTP結合領域で翻訳伸長因子群との複合体の形成を媒介することによって、TCTPはEF1A2の活性化に寄与することが示唆された。これらの情報をもとに、TCTPとNF1腫瘍特異的な翻訳伸長因子群の立体構造形成を阻害するような薬剤を選択的に用いることで、NF1に関連する腫瘍の治療の開発に応用できることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TCTPとEF1A2の相互作用部位をクロスリンキング質量分析法により同定することに成功し、国内および国際学会似て研究成果を発表した。これらのデータに関しては論文投稿の準備段階にある。一方で質量分析による翻訳活性測定法は構築準備状況にあり、今後解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.TCTP-EF1A2によって翻訳が活性化される分子群の網羅的な同定 新規NF1腫瘍促進シグナルネットワークの抽出 (in silico 解析)、シグナ ル活性化メカニズムの解析: TCTP/EF1A2を発現抑制および過剰発現したがん細胞株を用いて、Click反応をベースとしたL-azidohomoalanine(A HA)と質量分析によるタンパク質の網羅的同定を組み合わせ、TCTP/EF1A2の発現抑制および過剰発現によって発現変動する新生鎖ポリペプチドを網羅的に同定する。我々が開発したGene Ontology解析ツールMANGOや分子パスウェイ解析ソフトKeymolnetなどを利用したin silicoのデータ マイニングによって、翻訳活性化分子群を機能分類し、腫瘍化に密接に関連する新規シグナルネットワークを推定する。抽出された分子ネット ワークの機能については、生化学的・分子細胞生物学的手法によって詳細に解析する。 2.TCTP-EF1A2複合体の構造生物学的解析による機能阻害の検討 TCTP-EF1A2の相互作用部位データと分子動力学(MD)計算法に基づいた構造ドッキングシミュレーションによってTCTP-EF1A2複合体の立体構造を予測する。それらの情報を基に、KEGG DrugやDrugBank等のドラッグデータベースから、TCTP/EF1A2機能を阻害する薬剤候補をin silicoにスクリーニングする。候補阻害薬を処理した細胞内において、1によって同定されたTCTP-EF1A2によって活性化される分子群の翻訳抑制状態を、網羅的な新生鎖ポリペプチドの同定によって詳細に検証する。さらにNF1腫瘍培養細胞・モデルマウスを用いて候補阻害薬の抗腫瘍効果を生化学的・細胞生物学的に検証し、NF1 治療薬として有用であるか評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
クロスリンク質量分析法によるTCTP-EF1A2の相互作用部位の同定のために計画していた研究費が、最小限の解析条件を検討することによって成功したため、次年度使用額として生じた。質量分析の更なる高感度化・高精度化を目指した解析条件のため、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する計画である。
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