研究実績の概要 |
神経線維腫症Ⅰ型(NF1)は3000人に1人の割合で発症する遺伝性疾患で、悪性神経鞘腫瘍(MPNST)やグリオーマを発症することが知られている。本研究室の以前の研究結果から、NF1腫瘍細胞内ではTranslationally Controlled Tumor Protein (TCTP)の発現が上昇しており、悪性度の高いNF1腫瘍ではTCTPの発現量が高くなる傾向にあることを明らかにした。加えて、TCTPはEF1A2を中心としたNF1腫瘍特異的な翻訳伸長因子群との相互作用によって、NF1腫瘍の悪性化に寄与することを明らかにした。本研究では、TCTPと相互作用するタンパク質の同定と、それらの相互作用部位の特定をクロスリンク質量分析法によって行い、TCTPの構造と機能を解明することでTCTPのNF1腫瘍治療ターゲットとしての有用性を検討した。その結果TCTPのEF1A2への結合部位は、EF1A2と活性化因子であるEF1B, EF1D, EF1G複合体との結合部位の近傍であることが明らかとなった。したがって、EF1A2のGTP結合領域で翻訳伸長因子群との複合体の形成を媒介することによって、TCTPはEF1A2の活性化に寄与することが示唆された。また、TCTPはEF1A2のホモ二量体構造を形成する部位との拮抗的な結合を介してEF1A2の二量体化を阻害することで、EF1A2の翻訳機能を活性化することが考えられた。これらの情報をもとに、TCTPとNF1腫瘍特異的な翻訳伸長因子群の立体構造形成を阻害するような薬剤を選択的に用いることで、NF1に関連する腫瘍の治療の開発に応用できることが期待される。
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