研究課題/領域番号 |
19K07692
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
村松 昌 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 助教 (50568946)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管の臓器特異性 / 血管内皮細胞の多様性 |
研究実績の概要 |
転移抑制は患者の延命に直結する抗がん治療であるが、未だに有効な治療法はない。しかも、がんと診断された時点で既に血液中には数千に及ぶ循環がん細胞(CTC)が存在する。即ち、現実的な転移抑制として、CTCの転移臓器への生着を阻害する方法が第一候補になると考えられる。転移には原発巣依存的な転移臓器への親和性が認められるが、そのメカニズムは未だ明らかとなっていない。この臓器親和性の決定因子を同定できれば、その阻害が有効な転移治療に繋がると考えられる。血管内皮細胞(EC)は血管内腔を形成し、その活性化は腫瘍血管新生や血行性転移に必須である。申請者はこれまでに、CTCからの転移シグナルによって臓器特異的なECの活性化を見出した。本研究では、CTCが転移臓器において最初に接触するECに着目し、CTCの臓器親和性とECの臓器特異的活性化機構に基づいたCTC-EC相互作用機構の解明を目的とする。更にこの相互作用阻害に立脚した転移巣形成の抑制法開発を目標とし、有効性の高い革新的な転移治療法の開発を試みる。本年度は各臓器からの血管内皮細胞の単離条件の最適化検討および単離した内皮細胞を用いたRNAシーケンスによる網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、血管内皮細胞の臓器特異的な遺伝子発現シグネチャを得ることに成功し、現在はその検証実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、CTCの臓器親和性についてECの持つ臓器特異性の観点から鍵となる分子を同定し、更にその標的分子の阻害による転移抑制法の有効性を検証する。上記の研究目的を達成するために、以下に示す3つの具体的な研究計画を3年間の予定で遂行している。1.異なる転移シグナルによる臓器特異的なECの活性化解析、2.CTCとECの相互作用に働く標的分子候補の機能解析、3.個体レベルでの標的分子の機能解析と転移抑制効果の検討。 これまでの進捗状況として、1年目の本年度は項目1をほぼ完了しつつある。そのため概ね順調に進展しているとした。具体的には各臓器からの血管内皮細胞の単離条件の最適化検討および単離した内皮細胞を用いたRNAシーケンスによる網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、血管内皮細胞の臓器特異的な遺伝子発現シグネチャを得ることに成功し、現在はその検証実験を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究予定として、転移臓器の異なるCTCが臓器親和性依存的なECの活性化を誘導するか、またその活性化がどのような変化をECに誘導するのかを検証するために、異なる転移モデルによる各臓器のECの活性化関連遺伝子群をRNA-seqを用いた網羅的遺伝子発現解析によって探索する。(A) 転移モニタリングのために、それぞれ転移臓器の異なる悪性黒色腫、乳がん及び大腸がんの高転移株のLuciferase-ZsGreenの安定発現株を樹立し、尾静脈、心血管、腸間膜移植による転移実験を実施する。転移臓器への生着時期同定のために、経時的サンプリングを行い、リアルタイムPCR及び免疫組織染色によってCTCマーカー(LucまたはZsGreen)の発現検討を行う。生着時期の転移臓器由来のEC及びCTCをフローサイトメトリーによって分取し、RNAを抽出する。この時、正常臓器由来EC及び移植前のがん細胞をコントロールとする。(B) CTCとECの相互作用における遺伝子変動を把握するために、採取したCTC及びECのRNAを用いてRNA-seqを行い、予定している発現解析フローチャートに従って、網羅的遺伝子発現解析による標的候補分子群の絞り込みを行う。上記解析で絞り込まれた標的分子候補について、タンパク質レベルでの発現を検討するために、各特異的抗体による免疫染色を各臓器において行い、標的分子候補を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画は概ね順調に進んでいるが、実験動物を用いた研究内容がまだ未完了なため、動物の購入費や飼育経費への計上がされていないため、次年度への繰越額が生じた。
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