転移抑制は患者の延命に直結する抗がん治療であるが、未だに有効な治療法はない。しかも、がんと診断された時点で既に血液中には数千に及ぶ循環がん細胞(CTC)が存在する。即ち、現実的な転移抑制として、CTCの転移臓器への生着を阻害する方法が第一候補になると考えられる。転移には原発巣依存的な転移臓器への親和性が認められるが、そのメカニズムは未だ明らかとなっていない。この臓器親和性の決定因子を同定できれば、その阻害が有効な転移治療に繋がると考えられる。血管内皮細胞(EC)は血管内腔を形成し、その活性化は腫瘍血管新生や血行性転移に必須である。申請者はこれまでに、CTCからの転移シグナルによって臓器特異的なECの活性化を見出した。本研究では、CTCが転移臓器において最初に接触するECに着目し、CTCの臓器親和性とECの臓器特異的活性化機構に基づいたCTC-EC相互作用機構の解明を目的とする。 本研究計画は、CTCの臓器親和性についてECの持つ臓器特異性の観点から鍵となる分子を同定する。本研究計画の実現のためにまず主ながんの転移先臓器となりうる肺、肝臓、腎臓の正常な血管内皮細胞における特性を遺伝子レベルで解析することに着手した。正常な各臓器から血管内皮細胞を迅速にかつ正確に単離するために、機械的および生化学的手法を用いて単細胞化し、フローサイトメトリーによって内皮細胞分画を抽出した。その後、ゲノムワイドな網羅的遺伝子発現解析を行うため、次世代シーケンサーを用いたmRNAシーケンシング解析を実施した。その結果、各臓器における特徴的な遺伝子を複数同定することに成功し、それらの遺伝子の発現をリアルタイムPCR法によって検証した。これらの結果は、CTCが転移先臓器において接着及び生存する際の標的分子候補としての機能を有する可能性を示唆するものであった。
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