研究課題
ゲノム編集タンパク質分泌合成システムの構築 - 近年、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼの精製タンパク質を一般に入手できるようになり、目的細胞でのゲノム編集がより簡便となり、従来のCRISPR/Cas9 RNA導入と比べてゲノム編集効率が飛躍的に高まった。申請者はこれまでにpiggyBacシステム(非ウィルス的に目的配列をゲノムに挿入)と電気穿孔法(エレクトロポレーション法)を用いて簡便かつ短期間に安定分泌発現細胞株を樹立することに成功している。本研究ではこのタンパク質分泌合成システムを用いてpiggyBac TransposaseならびにCRISPR/Cas9タンパク質の簡便な大量精製に挑戦したいと考えた。具体的には、自作のpiggyBac発現ベクターの目的遺伝子上流に分泌効率が良いIL-2分泌シグナルペプチド配列を組み込み、培養上清中に分泌発現したタンパク質を簡便に精製するためにGST融合タンパク質精製システムを採用した。piggyBac TransposaseならびにCRISPR/Cas9タンパク質は核移行シグナル(NLS)を有していることから、合成したタンパク質が培養上清中に分泌されるかが懸念されるため、申請者はGFPにNLSを付加し細胞外に分泌されるかについて予備検討を行った。分泌GST-GFP-NLS安定発現細胞株の培養上清を回収後、GST融合タンパク質精製システムにて精製を行ったところ、NLSを有したGFPの蛍光が確認でき、十分量のタンパク質を回収することができた。引き続き、piggyBac TransposaseならびにCRISPR/Cas9タンパク質の分泌精製に挑戦したところ、両タンパク質はサイズが大きいためか細胞からの分泌は確認できなかった。現在、代替法として細胞ならびに従来の大腸菌を用いたリコンビナントタンパク質の大量精製を試験中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、これまでに申請者が構築してきたpiggyBac/in vivoエレクトロポレーション法によるin vivo遺伝子発現システムを発展させ、採卵・顕微注入・移植の作業を必要としない新規ゲノム編集マウス作製法「Genome-editing via Oviductal Nucleic Acids Delivery(GONAD)法」と申請者が独自に進めているタンパク質合成システムを組み合わせることで、安定発現細胞株を樹立する感覚で迅速かつ簡便に遺伝子改変マウスを作製し、多様な発がんモデルを構築することを目的としている。これまでに構築した安定分泌発現システムを用いてpiggyBac TransposaseならびにCRISPR/Cas9タンパク質の分泌精製を試みたが両タンパク質はサイズが大きいためか細胞からの分泌が確認できなかった。IL-2以外の分泌シグナルペプチドやIgG Fc領域を用いた分泌システムも試行したが、これらでも両タンパク質の分泌は確認できなかった。そこで、転写/翻訳を増強させることでHEK293T細胞を用いてリコンビナントタンパク質の大量精製を目的に構築した発現システムならびに大腸菌低温培養により立体構造を形成した目的タンパク質を効率良く精製することができるコールドショック発現系を用いたリコンビナントタンパク質精製システムのそれぞれを用いてpiggyBac TransposaseならびにCRISPR/Cas9タンパク質の精製を試験中である。また、大腸菌にCRISPR/Cas9タンパク質とガイドRNAを共発現させ、複合体の状態で精製に成功した報告が昨年なされた(Commun Biol. 2:161. 2019)。申請者も本システムを構築中であり、CRISPR/Cas9タンパク質-ガイドRNA複合体精製の確認とゲノム編集効率の評価を行う予定である。
安定分泌発現システムを用いたpiggyBac TransposaseならびにCRISPR/Cas9タンパク質の分泌精製ができなかったことから、HEK293T細胞を用いたリコンビナントタンパク質の大量精製システムと大腸菌コールドショック発現系を用いたリコンビナントタンパク質精製システムを試験中であり、より簡便かつ正確にpiggyBac TransposaseならびにCRISPR/Cas9タンパク質を精製するシステム構築を検討中である。精製タンパク質が得られ次第、培養細胞を用いてゲノム編集効率を評価し、本研究の目的である迅速かつ簡便な遺伝子改変マウス作製法の構築を目指す。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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