研究課題
肺癌の約3割を占める肺扁平上皮癌への有効な分子標的治療は未確立であり、発生メカニズムの根幹に関わる研究が求められている。肺扁平上皮癌が如何に発生するのかについては不明な点が多く、特に近年増加傾向にある末梢型扁平上皮癌の発生機序は未解明である。これまでに我々は、肺扁平上皮癌に対し、ゲノム編集を用いてドライバー遺伝子を抑制することで、抗腫瘍効果を誘導できることを明らかにしている。これまでの遺伝子改変マウスによる実験から中枢気道の幹細胞である基底細胞においてPTEN、CDKN2Aを抑制し、SOX2を発現させることで肺扁平上皮癌が発症することが報告されている。本研究において、末梢型肺扁平上皮癌の発生過程を調べるために、正常肺組織由来オルガノイドに対し、ゲノム編集技術を用いて遺伝子の改変を行った。TP53遺伝子のexon4を標的とするgRNAを作成しCRISPR-Cas9を用いてTP53へのゲノム編集を行い、MDM2阻害剤: nutlin-3aを培地に炭化することでTP53ノックアウト肺オルガノイドの作成が可能であった。また基礎検討から、正常肺組織由来オルガノイドは、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)を利用して外来遺伝子を挿入するPITCh法よりも相同組み換え(HR)法による遺伝子編集法で高効率であることが明らかになっており、この方法を用いてCDKN2AおよびPTENのノックアウトを行い、現在ハイグロマイシン投与下、コロニーの選択が終了している。一方、オルガノイドへのCRISPR interference法を用いた実験の結果から、幹細胞性にも関与するSOX2遺伝子に加えてPIK3Aを抑制することで、このオルガノイドの増殖を制御できる結果が得られており、ΔNP63とともに扁平上皮癌の進展への関与が示唆された。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件)
NPJ Precis Oncol
巻: 5 ページ: 29
10.1038/s41698-021-00166-3