核膜孔因子Nup88の過剰発現が種々の腫瘍組織で確認されている。しかしながら、この過剰発現が及ぼすがん進展への影響はほとんど解析されていない。本研究では、Nup88が癌にもかかわるヘッジホッグ経路を活性化してがんを悪性化している可能性を考え、この経路の関与が疑われる前立腺癌細胞株をモデル解析系として、いくつかの検討を試みた。 本年度は、(1)前立腺癌細胞であるLNCaP細胞のNup88安定発現株の樹立、(2)NUP88遺伝子のアンドロゲン受容体依存的な発現変化の検出、(3)前立腺癌細胞株におけるKif7のNup88過剰発現依存的な発現減少の有無の検討、および(4)前立腺癌細胞株におけるNup88過剰発現に依存したヘッジホッグ構成因子の活性変化の検討を試みた。(1)に関しては、前年度に引き続き、誘導性にNup88を発現するシステムを導入してその樹立を試みたが奏功しなかった。(2)に関しては、前年度まではアンドロゲン依存的なNup88タンパク質の発現変化を検討してきたが、安定した結果が得られてなかった。そこで、解析方法を改めた。すなわちアンドロゲンに依存した遺伝子発現変化はアンドロゲン結合タンパク質(AR)にも依存すると考え、アンドロゲンを発現していないHeLa細胞と発現している前立腺癌細胞におけるNup88の発現量を比較した。その結果、前立腺癌細胞のNup88発現はHeLa細胞より低いことが示され、AR依存的な発現抑制が考えられた。(3)に関しては、HeLa細胞において持続的なNup88の過剰発現によってKif7の発現が抑制されることを見出していたが、LNCap細胞の一過性のNup88過剰発現ではそのような効果は観察できなかった。またLNCap細胞のNup88安定発現株が樹立できなかったことからも、検討ができなかった。(4)に関しても、(3)と同様に、一過性のNup88過剰発現では、効果が確認できなかった。また安定発現株が樹立できなかったため、解析が行えなかった。
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