研究課題/領域番号 |
19K07701
|
研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
高野 洋志 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞生物部, 主任研究員 (00241555)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 大腸がん / モデルマウス / 染色体構造異常 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、大腸がんの進展に関わるゲノム構造の異常を明らかにすることを目的として、ゲノム編集により染色体異常を誘導する新たな実験系を開発し、大腸がんモデルマウスに導入する。これにより、CNAをはじめとするゲノム異常が実際にがんの進展に寄与することを実証し、さらに、同定されたゲノム異常を詳細に解析することにより、大腸がん進展の鍵となる遺伝子を同定する。 本年度は、一過性にゲノム編集を行うシステム(Pulse Gene Editingシステム)の開発を行った。ゲノム上に多数存在する反復配列B1SINEを標的としてマウス受精卵でゲノム編集を行った結果、予想通り胎生致死であり、マウス生体においてコンディショナルにゲノム編集を行うシステムの必要性が再確認された。そこで、コンディショナルにゲノム編集を行うために、タモキシフェン誘導型Cre(CreERT2)とCre誘導型Cas9発現系(ROSA LoxP-STOP-LoxP-Cas9)を導入した。APCガイドRNA発現ユニットをROSA26遺伝子座にノックインし、腸幹細胞特異的にゲノム編集によりAPC変異を導入した結果、従来のコンディショナル・ノックアウトマウスと同程度に、多数の消化管腫瘍が形成され、コンディショナル・ゲノム編集の有用性が確認された。さらに、ゲノム編集が持続的に生じることによる生体への悪影響をさけるために、Cas9ガイドRNA発現ユニットを追加導入して、同様にゲノム編集を行った結果、腫瘍数の減少と腫瘍におけるCas9タンパクの発現消失が認められ、ゲノム編集が一過性であることが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガイドRNA発現ユニットをゲノムに組み込んだ新たなゲノム編集によるコンディショナル・ノックアウトシステムを開発することに成功した。さらに、このシステムにCas9ガイドRNA発現ユニットを導入したPulse Gene Editingシステムの開発に成功し、その成果について報告する準備を進めている。 現在、この消化管腫瘍腫瘍モデルマウスにおいて腸幹細胞特異的にB1 SINEのゲノム編集を行うマウスの作製を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
反復配列を標的としてゲノム編集を行うと、DNAを修復しきれずにアポトーシスが誘導されることが予想される。その対応策として、DNA損傷に伴うアポトーシスを抑えるためにP53コンディショナル・ノックアウトシステムを導入する。本年度は、まず、B1 SINEを標的としたゲノム編集により染色体構造異常が誘導できることを、ES細胞でのゲノム編集により確認する。また、ROSA26-APCgRNA-Cas9gRNA-P53gRNA-B1gRNAマウスを受精卵でのゲノム編集により作製する。このマウスにLgr5CreERT2;ROSA-LSL-Cas9;LSL-KrasG15Dを交配により導入し、マウスにタモキシフェンを投与することにより、腫瘍形成と染色体再構成を誘導し、腫瘍数、腫瘍サイズ、腫瘍形成の時期、浸潤・転移の有無について詳細に解析する。これらの腫瘍について、病理組織学的解析ならびに幹細胞マーカー(Lgr5やOLFM4など)や増殖細胞のマーカー(PCNAなど)、分化細胞のマーカー(LysozymeやCK15など)の免疫染色、in situハイブリダイゼーションによる発現解析を行うことにより、個々の腫瘍の性格付けを行う。さらに、これらの腫瘍からレーザーマクロダイセクションによりDNAを抽出し、SNPアレイならびに全ゲノムシーケンス解析によりCNAを検出し、ヒト大腸がんで明らかにされているCNAデータと比較検討することにより、がんの進展・悪性化に関わるゲノム領域を同定を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度かつ年度末からのコロナ感染による研究活動自粛により、当初の見積もりから差額が生じ、次年度に繰り越した。 翌年分として請求した助成金と合わせて、染色体再構成マウスの作製と解析に充当していく。
|