本研究課題の目的は、大腸がんの進展に関わるゲノム構造の異常を実験的に明らかにすることである。そのために、ゲノム編集により染色体異常を誘導する新たな実験系を開発し、大腸がんモデルマウスで染色体異常を誘導するにより、CNAをはじめとするゲノム異常が実際にがんの進展に寄与することを実証し、さらに、同定されたゲノム異常を詳細に解析することにより、大腸がん進展の鍵となる遺伝子を同定する。 ゲノム上に多数存在する反復配列B1 SINEを標的としてゲノム編集を行うことにより染色体異常を誘導するために、Cre-loxPシステムによりコンディショナルにB1 SINEガイドRNAを発現するマウスを作製した。 APCコンディショナルKOマウスでは小腸に多数の腫瘍が形成されるが、大腸腫瘍は形成されない。APC変異にKrasG12D変異が加わると小腸腫瘍の形成が促進される。さらに、B1 SINEを標的としたゲノム編集により染色体異常を誘導すると消化管腫瘍の形成がさらに亢進し、とりわけ大腸における腫瘍形成が認められた。これらの腫瘍で染色体構造異常が生じていることをマルチカラーFISHにより確認した。APC変異マウスにおける消化管腫瘍形成は、染色体異常を誘導しても亢進せず、大腸腫瘍も認められなかった。野生型マウスでは染色体異常を誘導しても腫瘍は形成されなかった。 本研究の結果は、染色体構造異常がAPC/KrasG12D変異による腫瘍形成を促進し、大腸腫瘍の形成に関与していることを示している。しかしながら、生存期間内(タモキシフェン投与後4週)では浸潤・転移は認められず、さらに長期に経過観察が行えるようにタモキシフェンの投与方法等を検討し、がんの進展との関連を明らかにしていく。
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