本研究課題は、MIT/TFE ファミリー変異がん(胞巣状軟部肉腫(ASPS)、腎細胞がん(RCC)、悪性黒色腫)を対象疾患とし、ファミリー分子の変異によって生じるエンハンサーリプログラミングと発がん機構を明らかにすることを目標とした。 ASPSは主にAYA世代に発生する高転移性のがんである。ASPSの生体内での維持と転移には、腫瘍と血管の密接な相互作用が不可欠であるが、既存の抗がん剤やVEGF阻害剤の効果が乏しいことから、ASPSでの血管形成機構の解明が治療開発に最重要であると考えている。ASPSは全症例で融合遺伝子(ASPL-TFE3: AT3)の形成があり、これが発症原因である。これまでの我々の研究から、ASPSの血管新生には独自の機構があること、AT3の発現を抑制すると造腫瘍能を完全に失うこと、AT3の発現が血管関連遺伝子を制御するスーパーエンハンサー(SE)の形成に深く関わる結果を得ている。このことから、血管形成を規定するSEの同定とその標的遺伝子の発現抑制が治療開発に繋がると考えた。そこで最終年度は、AT3とエンハンサーとの特異的な相互作用、特にASPSの特徴である血管形成機構を明らかにすることで、発がんや血管新生の責任分子を標的とした治療法開発のシーズ獲得を目指した。具体的には、CRISPRエピゲノムスクリーニングにより、AT3が制御する発がんに必須なSEとその標的遺伝子を同定し、それらがASPSの発症や血管形成、転移においてどのような役割を担っているのかをマウスモデルとマイクロ流体デバイスを用いて解析を行った。その結果、同定したSEとその標的遺伝子は、腫瘍形成や血管新生の鍵となる分泌蛋白質の輸送に関わっていることが示唆された。
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