研究課題/領域番号 |
19K07703
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
碇 直樹 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (30649471)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Mieap / 液滴 / ミトコンドリア / カルジオリピン |
研究実績の概要 |
令和3年度には、Mieapの液滴がミトコンドリア内膜・外膜の両者に囲まれたミトコンドリア内の液滴であることをライブセルイメージングで明らかにした。さらに、ミトコンドリア内膜蛋白とMieap分子の局在関係の3D構築を行い、やはりMieapの液滴はミトコンドリア内であることを確認した。また、Mieapの液滴内外における濃度比、各組織における発現量の評価・免疫染色像との対比を行い、Mieapはミトコンドリア内では非常に液滴を形成しやすい傾向をもつことを明らかにした。さらに、Mieapの液滴は、Mieapを含む相の内部に細かい多数のMieapを含まない相を内包する2相構造をなし、各々にカルジオリピン代謝の基質・酵素を相分離させていることを明らかにした。この2相構造の形成については、Mieapの欠失変異の対比を行うことにより、Mieapの両親媒性、C末端側のカルジオリピンとの親和性(ミトコンドリア局在性)、N末端側のカルジオリピン代謝酵素群との親和性(疎水性の液滴へ積極的に酵素を引き込む)が必要であることを示した。さらに2相の境界面ではMieapのC末端とN末端が各々カルジオリピン代謝の基質・酵素を集めオーガナイズしており、2相の境界面が代謝の連続反応の場である可能性をみいだした。これまでの液滴の先行研究において、2相構造の境界面での代謝反応は、1相構造に基質と酵素を集めた代謝反応よりも速いことが試験管内では示されていたが、Mieapの液滴は、2相構造をなす代謝反応の液滴モデルの初の細胞内での実例となった。現在論文投稿を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究開始時においては、予定どおりMieap発現時に形成される液胞様構造物の由来・鉄との関連について、オルガネラの膜融合に着目し、膜を前提とした輸送 機構の検討から着手した。しかし、Mieapと鉄の輸送機構との関連を検討する過程で、Mieap発現時に形成される液胞様構造物が、膜を伴わない液滴であることを発見した。このことは、当初予期していないことであった。しかし、膜を伴わない、区画化された機能領域として、全く新しいミトコンドリアの液-液相分離の発見につながった。さらに解析を進めると、本液滴はカルジオリピン代謝の基質・酵素を集め、オーガナイズする代謝反応の液滴であることが明らかになった。カルジオリピンは、呼吸活性の維持や、活性酸素の制御などの機能と共に、細胞死誘導を司る分子である。本研究では、当初予期していなかった液滴の解析をさらに進める中で、Mieapのミトコンドリア品質管理機構が、当初研究目的としていた細胞死誘導の中核を担うカルジオリピンの代謝制御にあることに帰結した。さらに、本液滴における代謝反応は、液滴の先行研究で示された液-液相分離による代謝の連続反応モデルの細胞内での初めての実例となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、Mieapは液滴を形成し、カルジオリピン代謝を制御することが明らかになった。今後は、本液滴形成とMieapの癌抑制機能との関連をさらに明確にする。また、相分離によって形成される「液滴」は、生体反応を区画化する膜のない機能領域として近年注目を集めている。その液滴は、①必要に応じ可逆的に発生し、②その発生・組成には様々な制御因子(発現量、翻訳後修飾、ぬれ、温度、塩濃度、分子間の親和性、結合価、ATPの存在など)が存在し、③その機能は構成成分の組成比により変化することが知られる。その液滴の発生・組成の制御機構が明らかになれば、全く新しい観点から、癌の予防・治療に寄与可能となることが期待される。今後は、Mieap液滴の発生・組成の制御機構を解明することで、液滴を治療標的とした癌の治療の新しい戦略を見いだす。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、これまでのデータを取り纏め、論文投稿を行っている。Mieapの局在、Mieap変異体における相分離の変化、組織でのカルジオリピン代謝変化につき、データ追加のための実験費用と、論文採択時の投稿費に充てる。
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