研究課題
子宮腺筋症は、子宮内膜症、子宮筋腫と並んで、婦人科3大良性疾患の一つであり、月経困難などの日常的な痛み、不妊の原因ともなり、多くの女性にとって深刻な疾患である。代表者は、子宮腺筋症並びに正常子宮内膜のゲノム解析を行った。正常子宮内膜検体は、腫瘍組織と比較して、クローン性増殖した内膜上皮細胞の含有率が極めて低いため、ゲノム異常の検出が困難である。代表者は、レーザーマイクロダイセクション法を活用し、子宮内膜上皮細胞を濃縮することで、効率的かつ信頼性の高い、ゲノム異常の検出に成功した。約100症例子宮検体に対するゲノム解析を行い、世界で初めて、子宮腺筋症という疾患のゲノム異常の実態を明らかにすることに成功した。具体的には、子宮内膜症と同様にKRASというがん関連遺伝子変異が、子宮筋層の病変部だけでなく、一見、正常にみえる子宮内膜においても高頻度に見つかった。臨床情報との相関性を解析したところ、KRAS変異症例において、子宮腺筋症・内膜症の併発率が高かった。子宮腺筋症は、ホルモン治療により、治療効果が認められるが、一部の症例に限定される。KRAS変異症例は、特定のホルモン治療剤に対する抵抗性を示す可能性も示した。今回の研究により、子宮腺筋症という疾患は、子宮内膜症と発生起源が類似していること、ホルモン治療の個別化医療の対象となりうる疾患であることを強く示唆した。本研究成果は、Nature Communcation誌の発表に至った(Inoue et al Nat Commun 2019 10(1) 5785)。
1: 当初の計画以上に進展している
計画したレーザーマイクロダイセクション法を活用したゲノム解析により、子宮腺筋症という疾患のゲノム異常の実態を世界で初めて発見し、Nature Communcation誌の発表という研究成果が得られたため(Inoue et al Nat Commun 2019 10(1) 5785)。
確立したLCM法を活用した子宮内膜ゲノム解析技術を活用し、子宮内膜ゲノム異常と臨床情報(年齢、出産や妊娠歴、BMI)の相関性を解析することで、不妊・流早産・婦人科良性疾患・子宮がんの発症機構の解析ならびに予防法に向けた分子基盤の構築を目指す。今後の課題として、LCM法以外の手法を用いた濃縮法についても検証し、簡便性、価格面、解析手法の信頼性といった側面から、正常組織における有効なゲノム異常検出法の確立を目指す計画である。
作業工程の簡略化並びにLCM技術向上により、コストダウンに成功したため、次年度への繰り越しが可能となった。令和2年度は、改変法を活用した解析を行う上で、繰り越し金を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Cell Death Disease
巻: 11 ページ: 347
10.1038/s41419-020-2559-0
Nature Communication
巻: 10 ページ: 5785
10.1038/s41467-019-13708-y
Cancer Sci
巻: 110 ページ: 1096-1104
10.1111/cas.13937