研究実績の概要 |
前年度に確立したLCM法による微小領域からのゲノムDNA回収法を改良し、FFPE検体から、より簡便かつ効率よくゲノムDNAを回収する方法の開発に成功した。この新手法を活用し、正所性子宮内膜の腺管を正確に切り出することで、次世代シークエンサーを用いて、信頼性が高く、効率的な正常子宮内膜におけるゲノム異常の検出することに成功した。 臨床情報との相関性を解析したところ、興味深い点として、自然分娩歴のある患者由来の子宮内膜検体において、KRAS変異が有意に検出された。帝王切開歴とKRAS変異頻度との間には相関性が認められなかったため、自然分娩過程において、子宮組織に急激かつ激しい物理的ストレスがかかり、その結果、子宮内膜におけるゲノム異常が誘発されている可能性が示唆された。経産婦は、子宮腺筋症のリスク因子として知られていることとから、自然分娩過程において、子宮内膜上にKRAS遺伝子変異が誘発され、子宮腺筋症の起源クローンとして増殖し、最終的に子宮筋層において、異所性増殖し、子宮腺筋症を発症するという分子レベルでの発症仮説が示唆された。上記の研究成果をCell Death and Disease誌に発表した(Inoue, S., Yoshida, E., Fukui, Y., Ueno, T., Kawazu, M., Takeyama, R., Ikemura, M., Osuga, Y., Terao, Y., Hirota, Y., Mano, H. KRAS mutations in uterine endometrium are associated with gravidity and parity. Cell Death Dis 2020 11: 347)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度のNature Commun誌への発表に引き続き、今年度も、Cell Death Disease誌への発表(Inoue, S., Yoshida, E., Fukui, Y., Ueno, T., Kawazu, M., Takeyama, R., Ikemura, M., Osuga, Y., Terao, Y., Hirota, Y., Mano, H. KRAS mutations in uterine endometrium are associated with gravidity and parity. Cell Death Dis 2020 11: 347)に至った。今年度、開発した新しい独自の微小領域からの効率的なゲノムDNA抽出法を基盤としたゲノム解析法を活用し、これまで困難とされてきた正常組織におけるゲノム異常の実態解明に向けた研究結果が蓄積しつつあり、次の論文発表に向けて投稿準備中段階まで進捗しているため。
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